【新年創刊特別号】《記者コラム》COP26その後=食糧確保のための森林開発は本当か=環境への取り組みは見せ掛け?=実は貧困や暴力招く伐採や金採掘

法定アマゾンでの森林火災(Bruno Kelly/Amazonia Real)

 地球温暖化、気候変動が一段と深刻さを増し、昨年11月にグラスゴーで開かれた第26回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP26)では、産業革命前からの気温上昇幅を1・5度に抑えるため、2050年までに世界の二酸化炭素排出量を実質ゼロ(カーボンニュートラル)にすべきである事を再確認。2030年までに二酸化炭素排出量を2010年比で約45%削減する事が必要である事でも、合意が成立した。

形の上では積極的なブラジル

COP26でプレゼンテーションをするアクレ州派遣団(Marcos Vicentti/Secom)

 ボルソナロ大統領は地球温暖化を否定しているが、ブラジルでも少雨・干ばつと大雨といった両極端といえる現象が起きている。さらに、ラニーニャ現象で生じた低温なども温暖化の影響の一つだ。この流れの中、専門家はブラジルも森林伐採削減その他による温室効果ガス排出削減などに真剣に取り組まねばと口を酸っぱくして説いている。
 国内外からの突き上げでブラジル政府がCOP26で提示した目標の3本柱は、2028年までの不法伐採撲滅、2030年までに1800万本の植林実施、土地の侵食などが起きた牧草地3千万ヘクタールの回復だ。
 11月18日付エスタード紙によると、先進諸国(米国、英国、カナダ、日本、欧州連合)は2021~25年に120億ドルの支援を約束。民間部門からの支援も72億ドルに上る予定だ。

不法伐採や金採掘の増加傾向

汚職や不法伐採の嫌疑でサレス環境相(当時)や環境監査機関の長達を告発と報じる4月15日付RBAサイトの記事の一部

 ボルソナロ大統領は2018年の大統領選で当選後、世界の食糧確保のための法定アマゾンの開発を擁護。先住民達を富ませるため、先住民保護区での貴金属類の採掘も容認する発言を繰り返した。これらの発言は当時から批判的な目で見られていたが、19年以降の森林伐採や森林火災の増加や、先住民居住区での金採掘の増加は先住民の人権問題とも絡み、世界中の注目の的だ。
 また、フランスのマクロン大統領とドイツのオラフ・ショルツ首相は共に、環境面でブラジルに対して厳しい姿勢をとると見られている。ブラジルはCOPで積極的な目標を掲げたつもりだったが、ドイツなどがアマゾン基金への資金提供を再開していないのも、法定アマゾンでの伐採や火災の増加が続いているからだ。
 ボルソナロ政権の3年間で不法な形の森林伐採や森林火災、金採掘が増えているのは、大統領の容認発言で環境面での方針が転換され、監視機関が骨抜きにされた結果だ。
 リカルド・サレス前環境相の下では環境問題の国の審議会が政府側の人物中心になり、環境保護区の範囲縮小につながる法案などが審議されたりした上、彼自身が汚職疑惑で退任を余儀なくされた。心ある企業家達は政府に働きかけ、不法な森林伐採、火災、金採掘撲滅を呼びかけているが、環境監視機関への予算削減なども重なった負の影響が止まらない。

伐採や金採掘多発地域の問題

 不法伐採や不法な金採掘が深刻な問題を生じさせている事は、昨年12月6日付伯字サイトで報じられた社会進捗指数(IPS)でみた法定アマゾンの自治体の実態からもうかがわれる。IPSは45の指数を組み合わせた総合評価で、全国平均は63・29だが、法定アマゾン内772市の平均は54・59で、2018年の54・64より低下した。
 45の指数は三つのグループに分かれており、「人間的で基礎的なニーズ」は、乳児死亡率やごみ回収率、殺人発生率などからなる。「よりよい生活のための基礎」は、教育の質、ブロードバンドのインターネットの密度、森林伐採、二酸化炭素排出量に関する情報などを含んでいる。また、「機会」では、都市部の機動性、先住民や女性に対する暴力などのデータが加味される。
 アマゾン人間・環境院(Imazon)のアダルベルト・ヴェリシモ氏によると、森林伐採が盛んな市はIPSが低く、貧困や社会的な進歩の遅れが見られるという。森林伐採は人々の生活を改善せず、破壊するのだ。
 代表例は伐採量で1、2位を争うアルタミラとサンフェリックス・ド・シングーだ。両者のIPSはアマゾン全体の平均を下回る52・95と52・94で、772市中509位と513位だ。
 771位のパカジャーや763位のパウ・ラルコでは森林の劣化や社会的な紛争が起き、762位のジャカレアカンガでは不法な金採掘が行われている。これらの市は全てパラー州にある。

 IPS最良州はマット・グロッソ州の57・94で、逆の対極はパラー州の52・94やロライマ州の52・37だ。市で最良はマット・グロッソ州クイアバーの74・42で、トカンチンス州パルマスの70・23がそれに続く。州都などの大きな市はIPSが比較的高いのだという。世界で最もIPSが高い国はノルウェーの92・63だ。
 社会的な進歩に最も影響を与える指数は、上下水道などの基本的な衛生システムや治安、安全性へのアクセス、高等教育を受けた人達の労働力を引き付け、維持できるかなどに関するものだ。
 アマゾナス州は個人の安全関連の指数が56・25と低い。これは同州内での殺人事件多発が原因だ。上下水道、個人の安全、情報・通信面のアクセス、個人の権利、個人の自由、高等教育へのアクセスの6項目の指数は60以下だ。
 また、近年の同州は環境破壊の震源地で、森林伐採、先住民居住区や環境保護区への侵入、不法な金採掘、公用地に侵入後の土地分割などの違法行為が多発している。
 同州の実態を1970年代の数字と比べると、社会、経済、環境の各面で破壊的な結果が出ている。例えば、2000年のGDPに占める比重は9%なのに、温室効果ガス排出量では52%を占めている。
 他方、ロライマやアクレ、アマパーといった州は国内総生産(GDP)への貢献度が低い。
 大統領が言う、「食糧確保のための森林開発」という説は一見、正しく聞こえるが、焼畑で切り開いた農地や牧草地はやせており、劣化した土地に肥料を入れたりして再生させる方が、経済的で生産性も高まるともいう。
 ヴェリシモ氏は「アマゾナス州の人達の目に見えているものは科学的な分析でも明らか」とし、「森林伐採は補償されないし、社会的状況を改善しない。逆に、不平等、紛争、暴力を悪化させる」と結論付けた。
 法定アマゾンと共存、共生し、森を守りつつ、恩恵を享受する生き方が望まれている。(み)

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