脇田正昭さん(新潟県・83歳)が昨年10月10日、パラナ州ローランジャ市の曹洞宗洞光山仏心寺(森岡慈春(じしゅん)住職)に般若心経の写経2300枚を納経した。
脇田さんは新潟で生まれ、幼少期を父の仕事の都合により中国で過ごした。終戦の1945年に日本に引き上げ、54年に家族と共にサンパウロ州レジストロに農業移民として入植した。レジストロに約2年半住んだ後、パラナ州に移り、60年にマリアウバ市に土地を購入し独立。葡萄畑などを経営した。75歳で仕事を引退し、現在は年金生活を送っている。
写経を始めたきっかけについて「年金生活となり、日々ゆっくりできるようになったので、趣味がてら心も落ち着くようなことをやろうと思い、始めました。何か始めても続かないことが多く、親父にはよく『三日坊主』と叱られていましたが、不思議と写経はずっと続いているんですよ」と話す。
写経には、お経を書いた最後に願い事を書く欄「願文」があり、そこに各人が願うことを四字熟語などで書き記す。脇田さんも始めた当初は、自分や家族の安全を願った言葉を書いていたが、途中から祖父母や両親の戒名を書くようになったという。
「最初は願文に、健康祈願や家内安全などを記載していました。ただそうするうちに自分のことばかり願っていることに疑問がわき、親不孝だったことを思い出し、先祖の供養として写経を書くようにしました。以来、願文には祖父母と両親の戒名を書いています。また、双子の妹の命日には、彼女らの名前も書いています。これは私が7歳当時、家族で中国から日本に引き上げた際、強いストレスと体力不足により幼い妹らが亡くなった為、少しでも供養になればと考えて命日に記載しています」
曹洞宗洞光山仏心寺は、1960年10月に建立され、一昨年に60周年を迎えたが、コロナ禍のため式典を行うことができなかった。昨年10月に檀家信徒ら30人が建立61周年記念式典を行った。脇田さんは式典に合わせて写経を奉納。森岡住職から脇田さんに納経の証である日ポ語表記の「納経証」が贈呈された。
脇田さんは「コロナ禍で1年遅れたけれど式典も納経も無事に行うことができてよかった。森岡住職からも立派な納経証をいただき本当に嬉しいです。これを家宝にして、これからもできる限り続けていきたいです。次は一千枚納経を目標に頑張ります」と笑顔で語った。
仏心寺の森岡住職は、「2300枚もの写経をこの仏心寺に奉納された方は、私の知る限りでは今までいません。親族を思い、7年間一日も休まずに続けたことは本当に素晴らしく並大抵の人ではできないと思います。私自身、この貴重な納経に立ち会えたことに感謝しています」と述べた。