先日、二年ぶりに日本の友人からメールを受け取った。その中で、今年の大統領選挙について聞かれたので、今のところ調査で一番人気のあるのはルーラだと返事のメールで答えた。
私の友人はルーラが前回の選挙の時、牢屋につながれていて立候補できなかったのは知っている。今は罪を解かれて又大統領選挙に立候補しているのは知らないはずなので、どのような言い逃れをしてうまく刑を逃れ、牢屋から出て来れたのかを説明した。
説明しながら「この非常識な展開は日本人に『ブラジルは常識外れの国だ』と思われても仕方がない」と思った。
さて、今回もこれは「常識外れの国だ」と思わせるこの国の犯罪者とそれに対するブラジル人の対応について二つの例を紹介します。
マニアコ∙ド∙パルケ事件
1998年、ブラジル社会を震撼させる連続殺人事件がサンパウロ州で起こった。犯人はファッションモデルのスカウトを装い、若い女性たちに写真撮影するからと公園に誘い、強姦殺人を繰り返していた。被害者数は少なくとも11人(自白した数)に及び、強姦されたが何とか殺されずに逃げて助かった被害者も多数に及んだ。
このフランシスコと言う名のシリアルキラーは後に捕まり、裁判所の判決で268年の刑を受けた。だが、この国の法律では30年以上の監禁は認められていないので、2028年には釈放される予定だ。
さてここで「常識外れの国」と指摘するのは、どんな重い罪を犯し何百年の刑を受けようが、30年で釈放される理不尽なブラジルの法律ではなく、残酷で獣にも劣るこの殺人鬼に対するブラジル人女性の反応だ。
この殺人鬼フランシスコが捕まって牢に繋がれてから一カ月の間、彼には約1000通のラブレターが送られてきたという。そして最終的にはその中の一人と結婚もしている。こういうブラジル人女性の心理はノーマルな考えしかできぬ私には想像もできない。ちなみにブラジル人のジルマール∙ロドリーゴというジャーナリストが2009年に出版した『Loucas de amor: mulheres que amam serial killers e criminosos sexuais』(愛に狂う―シリアルキラーや性犯罪者を愛する女たち)と言うタイトルの著書で、なぜマニアコが多くの女性にもてるのかを推論しているので興味のある方はご参照されたし。
両親殺害事件
事件は2002年10月30日に起こった。上流階級の家の娘スザネ∙ヴォン∙リチトフェン(18、大学生)が恋人と共謀し、寝室で寝ていた両親を殺害し、他人による強盗殺人にみせかけた。殺人の動機は恋人との付き合いを反対されたこと。恋路を邪魔する両親を亡き者にし、ついでに財産も手に入れようとしたのだ。
スザネの父親は名の知れたエンジニアでRodoanel(サンパウロ大都市圏環状道路)の設計や建設にもかかわったという。一方母親の方も有名な精神科医でサンパウロ市内に大きな診療所を持っていた。
おそらく下流階級出身の恋人にそそのかされたのだと思うが、それにしても、何一つ不自由ない環境に育って大学にも通い優雅な生活を堪能し、金髪美人で男仲間からもちやほやされていたであろう娘が、なぜこのようなとんでもない犯罪を犯したのか。
さて、ここでも強調したいのは、若いどこにでもいる様な普通の娘が両親を殺害した事件そのものではなく、その後の彼女へのブラジル社会の対応だ。
司法はこの両親を殺害するという残虐な罪に対し、39年の刑を言い渡した。彼女はサンパウロ州トレメンベー市の刑務所で服役中であるが、数年前、メディアの間で彼女に関する「ある事実」が議論の的となった。
それは彼女が『母の日』に「saída temporária」(一時出獄)の恩恵を受けていたのが暴露されたからだ。「実の母を殺した囚人がなぜ母の日に一時出獄の恩恵をうける権利があるのか」との批判が沸き起こった。
この大変寛大な一時出獄の法律は、囚人がある一定の基準を満たせばどんな囚人にも適用される。一時出獄は年間5回の祝日(クリスマスと正月、復活祭、母の日、父の日そして死者の日)に一週間可能である。
もう一つ犯罪者スザネに対し「ありえへん」現象が起こっている。彼女は最近許可を得て昼間は大学に通っているが、クラスの同級生の一人によれば「Celebridade」(有名人、セレブ)の様な扱いを受けているという。
高価な携帯電話を見せびらかしたり、クラスメートからノートにサインを求められたり、昼食を注文すると直ぐ誰かが持ってきてくれるなど。その同級生はスザネのそうした態度に憤慨している。