「役立ちたい一心でやってきました。非常に光栄です」。リオグランデドスール州ポルト・アレグレ市在住の日系人医師、森口秀幸さん(64、東京)は昨年12月、伯国社会並びに日系社会に対する医療分野での功績を称えらえ、独立行政法人国際協力機構(JICA)から理事長賞を贈られた。先月12日、受賞の感想やコロナ禍となってからの巡回診療の様子について本人に取材した。
森口医師は、農業に従事する高齢一世世代が参加しやすいよう、毎年7月に巡回診療を行ってきた。コロナ禍中はSNSアプリ「ワッツアップ」等を使用した遠隔診療を行った。
遠隔診療は、事前に心拍数・呼吸数・血圧・体温を測定してもらい、一人ひとり連絡アプリで通話しながら診断していった。
遠隔診療を実施する上では多くの困難があった。高齢者の多くはオンライン通話に慣れておらず、介助者が必要で、耳が遠く、スピーカーからの音声をうまく聞き取れない人もいた。巡回地の中には電波の入らない移住地も数箇所あり、そういった場所では電波が入る位置の家に協力を仰いだ。各移住地の日本人会会長らが受診希望者一人ひとりと連絡を取り、調整を行う必要があるなど各所への負担も大きい。
コロナ禍の影響で慢性疾患が悪化している人や、欝になってしまった人、認知症が進行している人がいました。心配なので、出来れば直接会って診療をしたいですね」と話す。
コロナの感染拡大状況を鑑み、今年も遠隔診療になるという。
今後の目標について森口氏は「巡回診療を続ける事と介護が必要となった老人のための介護福祉施設を作る事」を挙げた。
森口氏が診察を行っている一世世代の日系人は約400人。多くは子供と離れて独居し、ポルトガル語が喋れない。その内の約1割は慢性疾患を抱え、自宅での介護生活を送るのが難しい状況にある。
「サンタカタリーナ州やリオグランデドスール州の奥地に住む、生活が困難な一世の人達を受け入れる施設が作れたらと思います」。
目標実現に向け、日本財団へプロジェクトを申請しており、3月頃には現地視察団が来伯する予定だ。
サビアのひとりごと
秀幸氏の取り組む巡回診療は祖父・細江静雄氏、父の森口幸雄氏から受け継いで毎年実施されてきた。幸雄さんから秀幸さんに切り替わる時期には、資金が足りなくなり、自己資金で実施したこともある。
2010年頃からはクラウドファンディング(インターネット上で支援を募り事業の資金調達すること)で足りない分の費用が賄えるようになった。このクラウドファンディングは、大学時代や教員時代の仲間達が立ち上げてくれた。
秀幸氏を助けようとする「同志」の存在に感銘を受けたサビア子。インターネットによって、他者と繋がることが容易になった分「なんとなく繋がっている」のではない「志を持った繋がり」へ憧れを持つ人は増えているのではないだろうか。