「ペトラ・コスタ監督はドキュメンタリーの続編を今すぐにでも作りたいのではないだろうか」。最近、そう思うことが増えている。なぜならセルジオ・モロ氏に関する疑惑が立て続けに報じられているからだ。
ペトラ氏が監督を務めたドキュメンタリー映像作品『ブラジル 消えゆく民主主義』は、動画配信サービス「ネットフリックス」で2019年6月19日に配信され、発表と同時に国内外から高い評価を受けた。翌年には米国アカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞にノミネートされるなど非英語作品としての快挙も成し遂げている。同作品は「ネットフリックス」で現在も配信中だ。
同作は前後編の二部構成になっていて、後編の実質的な主役はモロ氏だ。作中でモロ氏は、汚職撲滅を謳った「ラヴァ・ジャット作戦」の中心人物として国際的英雄となり、ルーラ元大統領に実刑判決を下す。その恩恵でボルソナロ氏が大統領に当選し、モロ氏は同政権で法相に就任する。ペトラ監督が捉えたモロ氏の姿はこの時点までのものだ。
「ヴァザ・ジャット報道」が行われたのは公開日の直前だった。「ヴァザ・ジャット報道」では、モロ氏の携帯電話の盗聴記録から、一判事のモロ氏が警察、検察の捜査リーダーのように振舞う越権的な様子や、建設会社の被告人にルーラ氏が不利になるような証言を行うよう働きかけている様子が報道された。
「ヴァザ・ジャット報道」によって暴露された「ラヴァ・ジャット作戦」の不法性が遠因となり、ルーラ氏は19年10月に釈放、21年3月にモロ氏が1審で有罪とし3審まで行っていた裁判も無効化。ルーラ氏の被選挙権は復活し、大統領選の支持率で現在1位となっている。
一方のモロ氏も20年4月に法相を辞任すると、判事時代に「絶対にない」と言い張った主張を翻し、昨年10月から大統領選に向けての準備を進めている。
そんなモロ氏に新たな疑惑が相次いで噴出している。
疑惑報道の端緒は、モロ氏の政界での師匠アルヴァロ・ジアス氏が90年代に、ラヴァ・ジャット汚職の中心人物である闇ブローカーのアルベルト・ユセフ氏を接待し、献金を受けていた疑惑に発する。ユセフ氏はその頃「バネスタード事件」(00年代最大の政治汚職)の仕掛け人として汚職行為を重ねていた。「バネスタード事件」発覚後、判事を担当したのがモロ氏だ。ユセフ氏は「バネスタード」「ラヴァ・ジャット」で汚職の中心に居たにもかかわらず、モロ氏から「捜査協力」の名の下に2度続けて大幅減刑を受けたのだ。
モロ氏にはこの他にも、法相辞任後にラヴァ・ジャット汚職疑惑のかかる企業の財務再建担当法律事務所(米国)に就職し、同事務所から360万レアルもの高額報酬を受け取っていた事実も発覚している。
この辺りまで含めて、ぜひペトラ監督に新作ドキュメンタリーを作成してもらいたい。(陽)