江田家では、昼間はよく働き、休日はボアビスタの夜風に吹かれながら親せきや友人を集めて食事を囲むのが習わしである。彼らが異郷の地で奮闘する両親祖父母を見て育ち、家族のきずなの大切さを実感して生きてきたことは言うまでもない。
日本人移民のパイオニアとしてボアビスタに到着した江田クラノスケ、スイ夫妻は、日本生まれのマサル、広、安子、テツ、そしてブラジル生まれのピアの5人の子供に恵まれた。日本人を快く迎え入れてくれたロライマの人々の中で、子供や孫たちはマクシーの文化を受け入れながら成長していった。
江田テツさんも故・広さんも、妻はブラジル北部出身のブラジル人で、子どもたちはマクシーとジャポネースをかけ合わせたジャクシーである。
江田家のホームパーティーの料理は国際色豊かで、サンパウロ同様に、和風のサーモンの刺身あり、イタリア料理、アラビア料理あり、そしてブラジル北部ならではのタンバキやツクナレなど、アマゾン河流域の川魚料理やロライマ州の郷土鍋ダモリーダが並ぶ日も珍しくない。
マクシーの料理人
江田家のホームパーティーの時にシェフとして腕を振るうのが、ボアビスタでの昔からの友人であり、プロの料理人としても活躍するマーラ・アブレウさん。幼少のころから料理が好きで、6年前に料理の専門学校を卒業し、本格的にプロとして働き始めた。マーラさんは現在、マナウスのアラブ料理店『ナジュア(NAJUA)』でシェフを務めている。
郷里のボアビスタに戻る時はいつも江田家のもとを訪れ、バラエティ豊かな料理をふるまい一緒に食す。レパートリーはブラジル料理全般、ロライマ州の郷土料理、アラブ料理はもちろん、ブラジルで親しまれている主な日本料理もさらりと作ってしまう。マクシーだけに魚料理もお手の物で、今では刺身の盛り付けまで見事な仕上がりである。
先住民マクシーの郷土鍋ダモリーダ
「日本の皆さんもぜひ、先住民マクシー由来のダモリーダを食べに来てください」と言うマーラさん。
「醤油のような香りがしますよね」と続けて見せてくれたのが、トゥクピー・プレット。トゥクピーはブラジル北部でおなじみの有毒のマンジオカ・ブラバを解毒して作られる食材だ。その中でもトゥクピー・プレットは確かに醤油に似た香りがする。
ダモリーダは一言でいえば、地元で獲れた魚をぶつ切りにし、玉ねぎやトマト、香味野菜やチコリなどと一緒にトゥクピーで煮込んだ鍋料理である。複数の唐辛子も加えるため、辛いのも大きな特徴といえる。
「私が作る時はこれでも辛さが控えめ。先住民はもっと辛くして食べていますよ」と笑うマーラさん。トゥクピー・プレットを使用したマーラさんのダモリーダは日本人の舌にも合う。ボアビスタではワインのお供にもダモリーダを用意することがあるという。
ブラジルの魚料理ということでムケッカのようにピロン(魚介スープにマンジョッカ粉を入れて煮込んで柔らかく固めたもの)が付け合わせられ、米の代わりに先住民の伝統であるベイジュー(マンジオカの粉を固めてせんべい状にした保存食)を割って汁に付けながら食べる。(取材・執筆/大浦智子、つづく)