ロライマ州には、隣国ベネズエラの政治経済危機により、2018年のピーク時に1日約1千人のベネズエラ難民が流入していた。
今日でも路上生活を余儀なくされているベネズエラ人は珍しくなく、彼らの支援がロライマ州では大きな課題となっている。この問題に対し、中心的役割を果たしてきた組織の一つがカリタス・ロライマだ。
ドイツ発祥のカリタスは、生活困窮者、難民の支援機関として世界的に知られ、ブラジルには1947年にブラジル本部が設立され、2018年にベネズエラ難民に対応するためカリタス・ロライマが開設された。
カリタス・ロライマ総監のホニウドさんによれば、カリタス・ロライマでは、大きく分けて2つのプロジェクトを実施しているという。1つは食事や医療などの緊急的自立生活支援、もう1つがインテリオリザソン(就業機会提供による難民らの社会受容活動)を通じての生活準備支援だ。
2019年からは「オリノコ・プロジェクト」を実施し、ボアビスタと国境の町パカライマにいるベネズエラ難民のために、浄水を提供。衛生環境の整った施設へ移るための手助けをしてきた。
また、路上生活者支援プロジェクト「メシェンド・ア・パネーラ」では食事の提供やシャワー、トイレ、水飲み場、ランドリーなどの生活環境提供支援を行ってきた。「メシェンド・ア・パネーラ」の実施場となっているボアビスタ市内のノッサ・セニョーラ・ダ・コンソラソン教会を同プロジェクトのコーディネーターであるアウレアさんが案内してくれた。
教会で提供される食事の用意は、ベネズエラ人の職業訓練の一環として、ベネズエラ人自身が行う。たんぱく質と米が各100キロ、フェイジョン80キロ、野菜45キロが用意され、月曜から土曜まで、毎日1200食を調理する。
シャワーはコインを受け取ってシャワールームの装置に入れると、一定時間お湯が出る。ランドリーは朝に服を出すと、一人ずつ服に番号札が付けられ、大きな洗濯機で一斉に洗い、乾燥も終えて午後2時に受け取ることができる。子供の教育支援も行われている。
ボアビスタで行われているベネズエラ難民のための居住シェルター建設や「メシェンド・ア・パネーラ」をサンパウロ州に居るベネズエラ難民にも適用できると考えているのが、サンパウロ市で難民と移民の支援を行うNGOでプロジェクトを進めてきたアブドゥルバセット・ジャロールさんだ。
ジャロールさんは「サンパウロ市でも、到着したばかりの難民は安心して暮らせる仕事や住居がなく、一時的な支援は必要です。ロライマ州でのプロジェクトは参考にすべき一つのモデルです」と説明する。
ベネズエラ難民らによる野球大会
ジャロールさんがカリタス・ロライマと進めているもう一つのプロジェクトが、ボアビスタでベネズエラ人難民によって行われている野球大会である。現在、週末になると約150人のベネズエラ人が市内の空き地で練習試合を行っている。
ジャロールさんは、「スポーツを通して難民や新移民の統合に関心を寄せてもらう」ことを目標として、ボアビスタでのベネズエラ難民の野球試合に注目した。
ベネズエラ難民が野球を始めたきっかけは、現地の日系人とも少し関連がある。ベネズエラ難民が大量に到着する以前、既に居住していたベネズエラ人とキューバ人、日系人の野球愛好家が、少人数で野球に親しんでいた。それを見て、ベネズエラから避難してきた人々もチームを結成し、本格的に野球を始めた。現在8チームほどのベネズエラ人チームがある。
ジャロールさんはパンデミックに入るまで、ブラジルの主要都市で25か国以上の国籍の難民を集めた難民サッカーワールドカップを実施していた。
ベネズエラ難民が多数を占める予定の野球大会だが「異文化交流も目的であり、野球好きな日系人やキューバ人にもぜひ参加してほしい」と呼び掛けている。
最北の地ロライマでも日系人は存在感を示し、日本政府も知られざる貢献をしていた。今後はさらに野球などを通じて、ますますブラジルの難民受け入れに協力する可能性があることが、今回の取材から伺われた。
(終わり、取材・執筆/大浦智子)