「人権保護活動を積極的に行っているブラジルの左派活動家は、さぞやロシアのウクライナ侵攻に反感を示しているでしょう?」と、日本人の知人から質問を受けた。だが、事態は意外に複雑で、ブラジルの左派活動家で今回の件に関して沈黙している人は少なくない。
沈黙の理由の一つ目は、強い反米感情だ。彼らは国際紛争に米国が介入することに強い嫌悪感を示す傾向がある。米国は1960年代に、キューバの影響でブラジルが共産国化することを恐れ、ブラジル政治に介入。右翼軍事政権を誕生させた。この時、左派活動家は政治的弾圧を受け、一種のトラウマを抱くこととなった。ベネズエラやボリビアも「ロシアが何をやったか」ではなく、「米国が介入していること」に嫌悪感を示している様に映る。
理由の2つ目は、反ネオナチ思想だ。「ネオナチ」とは親ナチスの思想を持つ集団のことで、外国人排斥、同性愛者嫌悪、反共主義を思想の中心としている場合が多い。ブラジルの左派系メディアは、ウクライナの治安当局にネオナチ勢力が多いことを積極的に報じている。同国では2014年に極右勢力が台頭し、政府はネオナチの暴力性を利用して国の治安維持に当たらせているという。国際報道がウクライナへの共感一色に染まる中、ブラジル左派メディアはウクライナ治安部隊員のネオナチ徽章装着事実を逃さずに報じている。
理由の3つ目は、「英雄化報道」への嫌気だ。ブラジルではかつて、メディアが一様に地方裁判所判事のセルジオ・モロ氏を「ブラジルを腐敗政治から救う英雄」と称えた時期があった。モロ氏は左派最大のカリスマ政治家、ルーラ氏に実刑判決を与えたが、後にその捜査方法の違法性が指摘され、裁判自体が無効になった。ウクライナのゼレンスキー大統領に関しても同種の「英雄化報道」の顛末を危惧し、距離感を置いている様だ。ルーラ氏の所属する労働者党(PT)も「戦争はいけない」とロシアには抗議したものの、ウクライナに過度のシンパシーを抱く言動は行っていない。(陽)