《記者コラム》基本金利14%はあり得るか?=戦争で2番底に向かうインフレ

金利上昇は3月で上げ止まりが本来のシナリオ

 16日に経済基本金利(Selic)が11・75%となった。世界的に見ると1位アルゼンチン(42・50%)、2位ロシア(20・00%)、3位トルコ(14・00%)について4位の状態となっている。
 ウクライナ危機が起きるまでは、中央銀行通貨政策委員会(Copom)は3月で金利上昇を減速させ、12%前後で今年いっぱい継続させ、来年から下げる軌道に入るという予想だった。
 1年前の3月前半には、Selicが史上最低水準の2%だったことが遠い昔のようだ。そこからわずか1年間で10%近くも急上昇した。それだけ、インフレの勢いが強いと中央銀行が認識している証拠だ。

【図1】歴代の政権では必ずSelicがIPCAを上回るように設定されてきた。それがボルソナロ政権2年目、20年6月頃から逆転(https://clubedospoupadores.com/selic/ipca)

 振り返れば、図1にあるように歴代の政権では必ずSelicが広義消費者物価指数(IPCA)を上回るように設定されてきた。それがボルソナロ政権2年目、20年6月頃から逆転した。インフレ率が上回るようになったが、中銀は史上最低の2%を維持した。
 そのためインフレが加速度をつけて上がり始め、9カ月も遅れて、仕方なく21年3月後半に上げ始めた。最初は0・75%ずつだったが、インフレの勢いがすごいため、1・5%ずつに上げ、今回ようやく1%上昇に減速させた。本来なら今は金利上昇軌道の仕上げ、最後というタイミングのはずだった。
 でも、そこで想定外のウクライナ危機が起き、その影響がこれから本格的に表面化すると見られている。中折れしていたインフレ上昇の勢いが再燃するようであれば、まだまだSelicを上げることはありえると見られている。問題は、どこまで上げるか、だ。
 ウクライナ危機によって世界中で石油や天然ガス、ロシアやウクライナが大産出国である肥料価格の高騰から農業生産物全般に価格上昇が広がり、世界をインフレに向かって押し立てる状況になった。これを受けて、ブラジル中央銀行ももう一段、金利を上げて13%前後まで持っていくという可能性が喧伝されるようになった。
 インフォマネーサイト16日付《Copom後エコノミストはすでに13%以上を視野に、利下げは23年以降へ》(https://www.infomoney.com.br/mercados/economistas-ja-preveem-selic-acima-de-13-apos-copom-reducao-de-juros-deve-acontecer-somente-em-2023/)では、今回1%の利上げをした後、中銀理事らは次回も同じ1%上げることを示唆したと報じている。
 つまり、次回5月3、4日には12・75%になっている可能性が高い。その時、まだウクライナ危機が終わっていなければ、その次の6月14、15日にもう1%あげたら13・75%、半分の0・5%でも13%は越える。
 万が一、さらにもう一段、想定外のインフレ要因が起きれば、2015年以来の14・25%越えも視野に入ってきた状態だ(《危機を受けて、市場は14%以上のリスクを視野に入れた》https://www.terra.com.br/economia/mercado-monitora-o-risco-de-selic-acima-de-14-como-na-crise-de-2015,381a29fc359ed2c978c181f4fd7fa39bkjwtt5ll.html)。

ウクライナ危機の本当の影響はこれから

 エスタード紙16日付《インフレがさらに拡散で新記録、2月は282品目で価格上昇》(https://economia.estadao.com.br/noticias/geral,itens-inflacao-recorde-historico-ipca,70004009301?utm_source=webpush_notificacao&utm_medium=webpush_notificacao&utm_campaign=webpush_notificacao)によれば、部品供給などのサプライチェーンがコロナ以前の状態に戻っておらず、原材料の不足、消費冷え込みなどが価格上昇の圧力となっていると分析している。

Selic14%以上の可能性を視野にいれた市場の動きを報じるエスタード紙サイトの記事

 いわく《2月に価格が上昇した製品・サービス項目は、昨年12月に記録した歴史的な数字を再び記録した。ブラジルのIPCAを構成する377項目のうち、74・8%が2月に上昇を記録した。昨年12月にこの数字に達した際、1999年8月の調査開始以来最高となっていた》とある。つまり、調査品目の4つに3つが値上がりをしていた。値上がりしていない品物の方が少ない状態だ。
 問題なのは、この調査は1月29日から2月25日にかけて収集されたデータを解析した結果であり、ウクライナ危機の影響以前の数字であることだ。《ロシアとウクライナの戦争の影響を受けて、例えば小麦などの穀物価格が国際取引所ですでに50%程度上昇しているほか、最近では軽油やガソリン価格も再調整されており、この状況はさらに悪化する見通しだ》と言う状況で、この高い水準で推移するどころか、さらに悪化する可能性すらあるという。
 事実、戦争開始以後は原油の値上がりが激しく、その影響は多方面に現れる。エスタード紙17日付《ディーゼル油上昇で電気代も上がる》(https://economia.estadao.com.br/noticias/geral,diesel-conta-luz-energia-eletrica,70004010371?utm_source=webpush_notificacao&utm_medium=webpush_notificacao&utm_campaign=webpush_notificacao)によれば、アマゾナス州、ロライマ州、フェルナンド・デ・ノローニャ島などは火力発電中心なのでディーゼル油高騰が直撃し、その費用負担は、ブラジル全土の消費者が薄く広く負担することになると報じている。
 そのようなインフレを抑えようと、さらにSelicを上げれば、一般的にPIB(国内総生産)は下がる。金利が上がることで、資金調達が投資などの経済活動がやりにくくなり、景気抑制要因になる。そうなれば、高インフレのまま景気後退というスタグフレーションの危機が迫る。選挙の年だけに、連邦政府からの口出しが続く中、中央銀行は難しい舵取りを迫られている。
 ボルソナロ大統領は値上げをしたペトロブラスを批判し、連邦議会でも燃料費上昇を緩めるための法案が可決された。それでも、全ての影響をなくすことはできない。トラックの運転手のストも含めて、燃料費値上げによる様々なリスクが高まり始めている。
 ただし、エスタード紙17日付《中銀元理事「ウクライナ戦争によるグローバル・インフレの影響をブラジルは受けにくい」》(https://www.terra.com.br/economia/brasil-pode-sofrer-menos-com-a-inflacao-global-causada-pela-guerra-na-ucrania-diz-ex-diretor-do-bc,a321b13adac770687c83ada386fc79e0h8pnvmjv.html)という記事もでている。原油や大豆などどんどん価格上昇するコモディティ関連だが、その輸出側であるブラジルは、輸入一辺倒の側の国に比べれば、インフレのインパクトは少ないという論説だ。
 意外なことに、資源国ブラジルは世界的にはまだ良い方かもしれない。だが、それでもかなり悪化していることは間違いない。

外国投資が800億レアル流入のメリットも

サンパウロ証券取引所(B3)の外観(Rockmysock, Public domain, via Wikimedia Commons)

 実はブラジル経済にとって悪いことばかり起きている訳でなく、冒頭に説明したような高金利であることを背景に、今年に入ってどんどん外国資本の流入が進んでいる。1月5日には1ドル=5・71レアルだったのが、株高傾向が続いてドル安が進行し、瞬間的には1ドル=5レアルを割る勢いになっている。
 ヴァロール紙サイト13日付《外資800億レアルがB3に》(https://valor.globo.com/financas/noticia/2022/03/13/capital-externo-traz-r-80-bilhoes-para-a-b3.ghtml#)によれば、ブラジルを初めとするコモディティ輸出が産業の中心の南米諸国には、ウクライナ危機はメリットを与えていると報じている。
 その結果、サンパウロ証券取引所(B3)の主要株価指数であるIbovespaは18日(金)、今年最高値で終了、年初からの累積で10%高という好成績を記録している。金曜日のIbovespaは1・98%高値、11万5311ポイントで取引を終えた。
 エポカ誌13日付《外国人投資のB3流入が過去最高》(https://epocanegocios.globo.com/Mercado/noticia/2022/03/epoca-negocios-entrada-de-dinheiro-estrangeiro-na-bolsa-brasileira-bate-recorde.html)によれば、短期間にこれだけ流入するのは過去最高の記録だと言う。
 いわく《欧州の紛争で、投資家はブラジルの商品を求めている。ブラジルに来ている外国人投資家は、コモディティという非常に特殊な関心を持っている。(中略)
 B3に上場している33の経済セクターのうち、今年上昇したのは3分の1以下、10%以上の上昇を示したのは3つだけである。鉱業は34・77%増、農畜産は17・72%増、石油・ガスは11・78%増を記録した。この間、株式市場の主要指標であるIbovespaは9%上昇しました。
 一方、ポジティボ、インテルブラス、マルチレーザーなどの企業があるコンピュータ・機器部門は、すでに今年34%も下落し、自動車・バイク部門も19・71%下落。運輸部門も15・31%減少だ》とあり、かなり、偏った分野に外国人投資が行われている。
 今のところ外国人投資家は、ロシアとウクライナの交渉に進展がなく、長引く気配があるうちは、コモディティ買いに動いているようだ。

国内個人投資家は国債や固定金利商品へ逃避

ブラジリアの中央銀行本店(Foto: Jonas Pereira/Agência Senado)

 その一方、高金利のために安全な投資先を求めて、国内の個人投資家はむしろ株式市場から撤退し、国債や固定金利商品に移動している。年初からの累計で、個人投資家はすでにB3から162億1300万レアルを引き出している。
 そして、レアルが強くなっている中で、コモディティの輸出をするので、その分、貿易黒字が膨らむ構図だ。それが、レアル高は輸入品価格を抑える効果もあるので、それらが現在の国内の「高金利で低成長」という構図にどう影響を与えるかが、今後の注意点だ。
 そのような不安定な経済状態の中で、今年10月の選挙に向けた最終調整が行われている。現在、知事や大臣などの公的な職務にある人で、別の公的地位を求めて10月の選挙に出馬する人は、4月2日以前に辞職しなければならない。加えて、なんら罰則なしに所属政党を移動できるのも、それぐらいの期間までだ。
 誰がどこから出馬するのか、誰と組むのかなどの全体的な選挙の構図が、4月初めにははっきりする。現在、3月後半から4月初めは、経済的にも政治的にも大事なタイミングといえそうだ。(深)

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