かねてから楽しみにしていた日本映画『ドライブ・マイ・カー』を19日、聖市きってのアート系映画館レゼルバ・クウツラルで観てきた。同作は昨年から世界の様々な映画賞を受賞し話題となっており、米国のオバマ元大統領が「2021年最高の映画」と激賞して知名度を上げ、遂には27日発表の米国アカデミー賞で日本映画史上初となる、作品賞を争う一本としてノミネートされた。
これだけですでに日本映画の歴史を塗り替えた作品と言っても過言ではないのだが、実際、それに見合う内容で大満足。映画館も伯人客で満員だった。
映画の内容については、このコラムの直接的本題ではないため、詳しくは述べないが、本作の特長を挙げるとすれば、「映像化は至難の業」と言われる世界の文豪・村上春樹の文学世界を過去最高の形で表現している、「人を愛する際に傷つくことを恐れないこと、心を開くことの大切さ」を観る人の心に訴えかけてくる、非常に深い哲学的洞察が含まれているといったところだろう。上映3時間と、非常に長い映画だが、シーン一つ一つに強い余韻があり観ると忘れられない。今からでも観ることをお勧めしたい。
この映画を見て改めて「聖市で新しいイメージの日本映画祭を催す必要がある」と思わされた。聖市には1950年代から70年代にかけて、リベルダーデ地区に日本映画専門映画館があったため日本映画が愛されてきた。その名残で、市内のDVD販売店ではその頃の日本映画の作品が売られている。
だが、そのラインナップが黒澤明や溝口健二など、いわゆる昔からの判で押したような名作ばかりで情報が更新されている気がしなかった。市内でたまに行われる特集鑑賞会でも、そうした印象をコラム子は抱いている。
そこで、今回の「ドライブ・マイ・カー」の快挙を足がかりに、「今の日本映画の精鋭」を紹介する機会が欲しい。
今回のアカデミー賞で監督賞、脚色賞にノミネートされた濱口竜介を筆頭に、ここ10数年の日本映画を牽引してきた是枝裕和や黒沢清、43歳とまだ若い濱口と同世代の期待の若手監督の山下敦弘、西川美和、深田晃司、今泉力哉、白石和彌などの作品を紹介する。
そうすることで、日本映画が再興し始めていること、アジアの映画界で熱いのが韓国映画界だけではないこと、日本の文化はアニメだけではないことなどを、日系市民のみならず、一般の伯人市民にアピールする絶好の機会になりうると思うのだが。
こうした動きがすぐに起こるかどうかはわからないが、この映画が日本文化にとっての大きな転換点をもたらし得る可能性があることは確かだと思う。(陽)