特別寄稿=日本でスペイン語情報誌発行=中南米人向けKYODAIマガジン=ジャーナリスト・木本加志子(きもと かしこ)の魅力=カンノエージェンシー代表 菅野英明

木本加志子 編集発行人

 「メディアを通してみた在日外国人労働者が抱える問題点は何か」―との問いに、木本加志子(きもと かしこ)は「問題点というより、なぜ雑誌を発行しているか、誰かがまだ、スペイン語で情報を出してくれているというありがたさ。1人でも2人でも、あの記事がよかったといわれたら、やはり、紙はやめられない」と語る根っからの紙媒体育ちのジャーナリストだ。
 ITが日常化したいまの時代に、活字文化で育った昭和世代にはホッとする一言でもある。2002年に在日ペルー人、メキシコ人、ブラジル人など中南米系のコミュニティを対象にした生活情報誌『KYODAIマガジン』を発行、生活の役に立つ多言語コミュニティ情報誌を代表する編集発行人として知られる。


木本加志子の人生

 1993年に日本にきた理由は「キョウダイ」で仕事するためだった。具体的にはキョウダイは1989年にペルーで創立され、その目的は日本に住むペルー人のサポートだった。来日は1993年12月23日でクリスマス前夜の寒い時期だった。
 この日本に定住してよかったと思うことは「日本生まれでペルー育ち、両親が『日本人はこうだ』という言葉の中で理解できないことがあったが、日本に長く住んで親が言っていたことが理解できたこと。特に『思いやりとは何か』が日本に来てよく分かった」。
 また「創業当初20人だった会社(キョウダイ)を130人にできたこと。在日ペルーやブラジル社会などコミュニティへの貢献及び外国人の雇用拡大と人材の多様化につながり、社員をとおして日本との関係強化に貢献できることなど、社員やお客様、取引先など、皆様方の力が結晶されたその積み重ねが現在につながっている」という。
 彼女は岡山県総社市生まれで1960年、3歳の時にペルーのリマに移住。1986年にブラジル移住。最終学歴はブラジルのイベロアメリカン大学(Faculdade Iberoamericana)、専攻分野は文学翻訳通訳(英語ポ語)。
 「現在まで32年間キョウダイ関係の仕事をしている。それ以前はブラジルでいろいろな仕事をした。それらの仕事は、キョウダイで仕事するためのステップアップにつながっていると思う。常にお客様第一に考えている」。
 自分の性格について聞くと「いつも人に対しては、優しく、親切にする。誰に対しても、気が悪くならないように、気を使う。ポジティブ」と応えた。

両親からの教育とその思い出を語る

 父の名前はタニモト・マサオで1927年8月にペルーで生まれた。母はタニモト・ヤスコで、1932年7月生まれ。加志子は母と一緒に1960年にペルーに移住した。日本人の両親をもってよかったことは「日本とペルー、2つの文化に触れあいながらいまの私がある。それは私にとって大いにプラスになっている」。
 少女時代の父の思い出を聞くと、「父は踊りも演奏もタンゴがすごく上手だった。それを見ながら、スポーツをやりなさい、勉強をしなさいと、かなりプレッシャーをかけられた」。
 こうした中でも一番熱心だったのは読書だ。「父が本(童話)を読み聞かせしてくれた記憶がある。日本の情報、特に日本の本がほしい、といっては早速取り寄せてくれた。当時ペルーには3カ月遅れの船便で本が届いた。月刊誌の『よい子』『小学校1年生~6年生』などを毎月取ってくれた。漫画を見ながら、ひらがなも覚えた。
 父は音楽が好きで、日本の曲をよく聞いていた。新しい計算機が出た時などすぐに買ってくれた。サラリーマンだったけれど一つでもいいものを(私に)与えてくれていたと思う」。それが「いまの自分の全てじゃないかな。全てが役立っている」
 少女時代に母から教えられたことは「教育熱心だった。母から言われて負けずぎらいになった。1番にならないといけない感覚が強い。日本に来て、笑われないように頑張らないといけないという気持ちがある」「父と、休日はスポーツ、魚釣り。平日は必ず勉強。かなりスパルタ。100点とってきても、それが当たり前という感じだった。母とは、家の手伝いと勉強。それでバランスがとれていたのかな」。
 それがいまの自分にどう役立っているのかを聞くと「いつも同じ生活をしなさい。年寄りには優しくしなさい。人の物であればもっと大事にしなさい。物には一つずつ心があるのだから大事にしなさい、と言っていた。1円でも大事にしなさい。1円がないと、1億にならないよ」。
 日本には現在、中南米出身者の中では、約20万人の在日ブラジル人に次ぎ、計10万人とされているペルー日系社会のその半分の5万3千人の在日ペルー人が暮らしている。
 社長としてこれから日本でやってみたいことは、日本人に関しては「海外の良いものを日本で紹介したい。皆さんの生活に役立てれば、プラスになれればというのが一番強い。根本はそこだと思う」。
 取材の最後に日本語で好きな言葉を聞くと「ありがとうございます」「がんばります」「よろしくお願いします」「すみません(言い方によっていろいろな意味が含まれている)」だった。
久しぶりに純な心を持つジャーナリストを取材した。そこには多文化共生社会づくりの一隅を照らし続けて生きる木本加志子がいた。

在日外国人労働者の海外送金サービス

 KYODAIグループとは、一言でいえば、在日外国人労働者の海外送金サービスを中心にした日本を代表する多文化共生の会社といえる。世界20カ国から130人の社員が一緒に仕事をしており、この分野の独立系会社としては国内ナンバーワンの実績を誇っている。
 社員の多国籍化に見られるように、会社組織自体が共生社会ゆえに、チームワークを柱にした『Family to Family』が誇れるオンリーワンになっている。
 コロナ前より一部導入していたテレワークを積極拡大するとともに、オフィス内・店舗内では体温計・消毒液・仕切り幕の常備、換気、清掃を丹念に行っている。またワクチン接種については積極的な接種を社内で促すとともに、一人での対応が難しい場合は会社として予約等のサポートをしている。

在日外国人のためのKYODAIマガジン

 昨年、第61回海外日系人大会が2021年10月末に開催された。最近の動向として、この大会は、世界各国在住の日系人が日本で一堂に会し、相互の親睦を深め、日系社会の課題や日系社会間あるいは日系社会と日本との協力や友好関係などについて考えることを目的としている。
 その分科会パネラーとして木本加志子氏も招待された。それほど経験豊富な実力派のジャーナリストだ。
 今年1月に同誌は創刊以来20周年の記念すべき節目を迎え、毎号9千部を発行している。その目的と編集方針は、在日外国人労働者社会向けの媒体として、ペルー系、ブラジル系、メキシコ系などヒスパニック及びポルトガル圏コミュニティの日本在住者の役に立ちたいという理由から創刊した。

イベント会場の木本結一郎社長と木本加志子夫妻

 同誌の編集方針について加志子編集発行人は「日本語が不自由な移住者やデカセギ及びその家族にはスペイン語での情報提供ツールが必要だと考え、ヒスパニック及びポルトガル圏社会の家族同士をつなぐ懸け橋となることを常に意識しており、デカセギの人々と移住者に常に寄り添い、誠実に正しい情報伝えようと全身全霊で取り組んでいる。日本に溶け込む過程における困難な経験や得られた成果も記録してきた」とする。
 社会性及び公共性に支えられた編集に関して、「こうして20年続けてこられたのは皆さんのおかげ。すごくありがたい」との手ごたえを語った。

多文化共生社会における加志子流人材育成策

 「まず大事なのは人間性。いろいろな国の人が仕事をしている。相手の立場、言語、文化を考えながら、リスペクトしながら毎日を過ごしていかなければならない。基本だが、言葉に出して自分の意思を伝えていかなければならない。いろいろな人がいるから、我慢が必要な時も多い。我慢とは、相手の言い分を聞いて理解するという姿勢が大事だと思う。
 テクニカル面は誰でも覚えられると思うけど、そのような気遣いは伝えてあげないと。自然に分かる人と、伝えないと理解しない人がいる。そのようなところも人材育成のポイントの一つとして気にかけている」。(寄稿者 カンノエージェンシー代表 菅野英明)


KYODAI MAGAZINE 媒体概要
仕様:210mm x 297mm(A4サイズ)
編集内容:日本での生活、教育、料理、イベント、アメニティ、その他、
発行部数:9千部(イベントやキャンペーンに応じて最大1万5千部のバリエーション)
発行:隔月刊で年間5回発行、使用言語はスペイン語
印刷された雑誌の配布:キョウダイグループの会員の自宅に直接配送、キョウダイ代理店や全国の各種商業施設、大使館、領事館、関係協会等で配布、(*デジタルマガジンはオンラインで閲覧できる)
無料配布:フリーマガジン
読者対象:日本のペルー人とブラジル人およびメキシコ人などスペイン語・ポルトガル語圏の読者


木本加志子の略歴
93年に来日(来年は30周年)
WEBショップ「南米市場KYODAI MARKET」の運営を行う会社社長として『南米の新しい食文化・ライフスタイルを紹介』し、事業を通して日本における多文化共生の浸透と拡大にも努めるジャーナリストで知られる。
 KYOSAIマガジン創刊以来、編集発行人職にある。
 3歳で日本からペルーに家族移住、国立ラ・モリーナ大学卒業。84年岡山大学にて研修、86年ブラジルへ移住、イベロ・アメリカンカレッジに入学し翻訳・文学を専攻。91年、夫の木本結一郎が経営するKYODAIグループに入社し、ブラジルKYODAIの設立に関わる。1993年から日本在住、97年(有)KYODAIジャパン(ペルー物産販売)代表取締役。2000年(株)ウニードス取締役。


キョウダイグループの事業概要
会社設立年月:2000年6月
社名:株式会社ウニードス
社長名:木本結一郎(きもと ゆういちろう)
社員数:130人
経営理念:Family to Family
主な業務内容:
全国規模の店舗を持つ『キョウダイレミッタンス』ブランドの海外送金サービス。
隔月刊誌でスペイン語による『KYODAI MAGAZINE』の発行。
日本にいるスペイン語ポルトガル語圏出身の子どもたち向けの『通信教育』。
関係会社の『キョウダイ・ジャパン』は中南米産食品の日本での販売事業を行う。

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