在住者レポート「ペルーは今」生活不安でストライキ多発=大統領不支持率は首都圏88%に=制憲議会問題が再燃

大統領罷免否決も不支持率は首都圏で88%に

制憲議会招集ついて問う国民投票法案の国会可決を確信していると演説するカスティージョ大統領(アヤクチョ県、4月27日、アンディーナ通信社)

 前回の記事(3月26日付)では、多くのペルー日系人、同国在住の日本人が、2021年7月に誕生したペドロ・カスティヨ政権に対し「今回ばかりは政治によって自分たちの生活が急激に変化するかもしれない」という強い緊張感を覚えていることを伝えた。
 記事掲載後間もなくの3月28日、カスティージョ大統領に対する2度目の罷免決議が行われた。結果は賛成54票、反対55票、棄権19票で否決。罷免決議後もカスティージョ大統領は「権力者によるノルマ」と呼ばれる縁故人事(政権与党ペルー・リブレ党のウラジミール・セロン党首らが国政人事に介入し、汚職疑惑のある人物を大臣に任命した)を行い続け、支持率を落とした。
 調査会社イプソス社の世論調査によれば、大統領不支持率は3月10日時点で66%だったが、4月10日には76%に上昇し、リマ首都圏における不支持率は88%に達した。

インフレによる生活不安を実感=激化するストライキ運動

 4月、大統領支持地域と見られていたアンデス山岳地方の各県で、食料や燃料などの物価高に抗議する運送業者による無期限ストライキが発生した。
 世界的な食料価格の上昇をうけ、ペルーにおいてもインフレが進行。ペルーのインフレ率は21世紀に入ってからは安定しており、ほとんどの年はペルー中央準備銀行(BCR)の目標値である年率3%の範囲内に収まっていた。それが2022年3月のインフレ率(国立統計情報庁調べ)はペルー全国で7・54%(2021年4月から2022年3月)に達し、国民の生活が脅かされている。
 ペルーでは1989年に7000%を超えるハイパーインフレに見舞われた時期があり、筆者は、ペルー人の友人からその時代の苦労話をよく聞かされていた。しかしながら、日本で育ち、物価が安定してからのペルーに住み始めた私には、インフレがどのようなものかという実感がなかった。それが今や生活必需品であるサラダ油やガスボンベの価格が1年前との比較でほぼ2倍になるなど、給料が増えないのに物価が上がっていく状況に焦りを感じるまでになっている。
 調査会社ダトゥン・インターナショナル社が4月に都市・農村で世論調査を行い「36%のペルー人が、収入で支出をまかなえず、支払いが困難な多くの借金を抱えていると回答した。注目すべきは、3月から4月までのわずか1カ月でその割合が18%も増えたことである」と発表した。物価高による国民の生活不安は非常に高まっている。運送業者らの無期限ストライキにはこうした生活不安が背景にある。
 ストライキが全国的に広がっていく中で、カスティージョ大統領が「いくつかのストライキや道路封鎖には悪意があり、数人の指導者、首謀者から金銭が支払われている」と発言し、ストライキ参加者から強い反感を買い、運動はより激化、6人が死亡する事態に至った。
 それからもストライキ参加者が国内主要道路86カ所に通行の妨げになる様な置き石を行い、タイヤを焼いて道路封鎖をするという状況が一週間以上続いた。物流が停滞し、さらなる食料品の値上りを引き起こした。各地で商店が略奪され、ストライキに参加しない車両に投石が行われるなど、暴力的な動きにも発展し、大きな社会問題となった。
 カスティージョ大統領は、ストライキの影響がリマ首都圏に広がることを警戒し、4月4日午後11時半頃、外出禁止令を急きょ発令。リマ首都圏とカヤオは、4月5日午前2時から午後11時59分まで、エッセンシャルワーカー(医療、物流など必要不可欠な仕事)以外は外出禁止となった。経済活動が急停止し、市場は大きく混乱。大きな経済的損失を生み出した。

再燃した制憲議会問題=「否決されればプランB」

 4月25日、激動のペルー社会を更なる衝撃が襲った。新憲法制定を望むカスティージョ大統領が、制憲議会招集の是非について問う国民投票法案を国会に提出したのだ。
 制憲議会による新憲法制定は、政権与党ペルー・リブレ党主導で行われる見込みで、憲法にどのような修正がされるかがはっきりしていない。これに不安を覚える国民や投資家は多く、ミルタ・バスケス氏が21年10月6日に首相に就任した際「制憲議会の発足は政府としての優先事項ではない」と発言、現在のアニバル・トレス首相も「現政権では制憲議会については推進しない」と明言したことで不安は和らぎつつあった。それにもかかわらず、同法案が提出されたことにより、再度、不安が再燃することとなった。
 制憲議会招集の推進を優先すべきと考える国民は、4月27日にエル・コメルシオ紙に掲載された調査会社イプソス・ペルー社の世論調査によれば、リマ首都圏ではわずか7%。地方でも同じ割合であり、国民の支持は全く得られていない。
 2017年ベネズエラにおいて、マドゥロ大統領が制憲議会の発足を強引に進め、国会から立法権などの権限を剥奪し、独裁体制を確立した事例がある。
 制憲議会に対しペルー国民及び企業家、投資家は恐怖心を抱いている。現在のペルー国会は、野党が議席の過半数を抑えており、同法案が可決される可能性は低い。
 しかし、制憲議会招集による新憲法の制定は、カスティージョ大統領が所属するペルー・リブレ党のウラジミール・セロン党首が強く主張する政策。セロン党首は「同法案が否決された場合には、国会に対してのプランBがある」と発言するなど国会に対して圧力を強める姿勢を見せており、予断を許さない状況が続いている。

筆者略歴

都丸大輔(とまるだいすけ)。青森県生まれ東京都育ち、将棋三段、日本語教育能力試験合格。日本では教育委員会の嘱託職員として外国人児童の日本語教育、学校生活の支援に取り組むとともに、スペイン語圏話者向けの個人レッスン専門の日本語教師、スペイン語通訳に従事。2012年からペルーに定住し、個人レッスンを中心とした日本語教育に携わりながら、ペルーにおける将棋普及活動に取り組む。2017年からはペルー日系社会のためのスペイン語と日本語の二カ国語の新聞を発行するペルー新報社(https://www.perushimpo.com/)の日本語編集部編集長に就任。2021年からはねこまど将棋教室の将棋講師として、オンラインでの将棋の普及活動にも取り組んでいる。

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