《ブラジル》大統領選の最大争点は中絶か=ルーラが独断?! 左派陣営内でも異論 「議論だけでもタブー」との声も

演説するルーラ氏(16年9月15日、Roberto Parizotti/Cut)

 10月の大統領選挙に向けて、最大の争点となるとみられているのが中絶問題だ。これに関しては既に、ボルソナロ派とPT(労働者党)派で二極化する様相を呈していると1日付現地紙などが報じている。
 ルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァ元大統領(PT)は最近のイベントで、「中絶は公衆衛生の問題として扱われるべきであり、誰もが権利を持ち、恥じるべきではない」と発言し、中絶を禁止する現在の法律を検討する意向を表明した。だが、左派の仲間からさえも「言葉には細心の注意を払うように」と警告された。
 キリスト教国においては、中絶問題はそれほどデリケートな問題なのだ。中絶が認められているのは母体が命の危険にさらされている時とレイプ被害者、無脳症胎児のみだ。無能症胎児の項目は2012年の最高裁(STF)の決定で加えられた。
 2010年選挙でジルマ元大統領(PT)はいったん妊娠中絶の合法化を擁護したが、最初の政府プログラムでの反響の悪さからそれを撤回した。その挙句、中絶反対派の急先鋒であるカトリック教会に手紙を送り、合法化に反対していると言及。法律を変更しようとしないことまで約束した。
 以後、左派や中道右派の大統領候補はこの問題に取り組むことを避けてきた。例えばマリーナ・シルヴァ氏(持続可能性ネットワーク党・Rede)は国民投票の開催を擁護し、2018年のPTの大統領候補だったフェルナンド・ハダジ氏は議論の責任を連邦議会に投げた。
 アエシオ・ネヴェス氏(ブラジル社会民主党・PSDB)とジョゼ・セラ氏(同)は、彼らが反対派であると言うにとどまった。ルーラの副候補となっているカトリック教徒の医師、ジェラルド・アルキミン氏(ブラジル社会党・PSB)は、公衆衛生の観点で中絶について言及したことはない。
 ボルソナロ大統領は、この問題に対する国内の反対派を示す世論調査(人口の約半数が中絶を承認していない)に目を向け、妊娠中絶に反対する立場を選挙キャンペーンの旗印に掲げる。
 先月、大統領は選挙討論を前倒しし、ルーラ発言への反論者として元女性・家族・人権相のダマレス・アルヴェス氏(共和者)を指名した。上院議員に出馬予定の彼女は「今日、ルーラ氏は中絶を擁護している。明日は安楽死、そして優生学を擁護するだろう」と述べた。
 現政権の大票田の一つはキリスト教福音派であり、その教えに従い、家族と生命の保護を信条としている。ボルソナロ氏の保健部門の助言者で医師、19年に市民相を務めたオスマール・テラ下議(民主運動・MDB)は、中絶禁止は議会でタプー(禁忌)のトピックであると考えている。彼は「私はそれに反対している。私の立場は大統領と同じである」と断言した。

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