セルジッペ州で5月25日、連邦道路警察官が精神障害を持つ黒人男性ジェニヴァウド・デ・ジェズス・サントス氏(38)を連行する際、暴行を加えた上、窒息死させる事件が起きた。
奇しくもこの日は米国の白人警官が黒人のジョージ・フロイド氏を殺害した事件から丁度2周年の日だった。米国では同氏の名前を記した道路標識が披露され、警官による暴力事件は後を絶たない事などが報じられていた。
また、ブラジルでは、作業療法を取り入れ、障害者の社会統合を進めた精神科医のニゼ・ダ・シルヴェイラ氏を国の英雄の一人として顕彰するための法案にボルソナロ大統領が拒否権を行使し、官報に掲載した日でもあった。
大統領は拒否権行使の理由を「同氏の業績が公益に反す事を示すため」と説明した。同法案は精神障害者の社会統合に作業療法が有効であることを専門家が検証し、その内容を連邦議会が承認したもの。大統領の言い分は正直に言って理解に苦しむ。大統領はニゼ氏の業績を知らず、障害を持つ人達の才能や人権を認識していないのではないかとさえ思える。
セジルッペの事件に関する報道によれば、道路警察の訓練課程からは人権関連の講義が除外されているという。その事と大統領の拒否権行使には共通するものを感じてしまうのはコラム子だけか。
ジェニヴァウド氏は警官から怒声混じりの職務質問を受け、携帯していた常備薬について訊かれた際、警官の手を振り払った事が抵抗とみなされた。警官達は彼が病気である事を認めず、居丈高に権力を行使しようとし、手足を縛って警察車両に閉じ込め、ガスを大量に流し込んで窒息死させた。
いわれなき攻撃を受けて思わず抵抗することは誰にでも起こりうる。弱者の立場や人権、病気などを正しく理解していれば、第1、第2のフロイド事件は起こらず、ニゼ氏顕彰法案への拒否権行使も行われなかっただろう。
セジルッペの事件を知れば草葉の陰のニゼ氏も嘆いただろう。拒否権は議会が覆せるが、弱者の人権を認め、互いを尊重するための対話や配慮ができる人物の育成は一朝一夕では為し得ない。(み)