新型コロナウイルスの世界的大流行は各国の社会に大きな変化を生み出し、その中で日系諸団体の活動のあり方も変化を余儀なくされた。
今回の記事ではペルーが新型コロナウイルスの世界的大流行によりどのように変化し、ペルー日系社会が同危機にどのように対応してきたかについて振り返ってみたい。
世界でも有数の厳格なロックダウンを適用したペルー
医療システムが立ち遅れているペルーでは、感染者が急増する前に新型コロナウイルスの感染者を受け入れるための入院用ベッドや集中治療室を増やす目的で、当時のマルティン・ビスカラ政権は、2020年3月15日に新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐための国家緊急事態令を発令し、国の経済活動のほぼ半分を停止させる厳格なロックダウンを適用した。
この国家緊急事態令により、国境が閉鎖され、ペルー国内の県境を越えた移動もできなくなり、エッセンシャルワーカー以外の人は最低限の活動以外にはほぼ全く外出できなくなった。3月18日にはいかなる夜間の外出も禁じる夜間外出禁止令が適用され、違反者には罰金が課せられた。これらの措置が国家緊急事態令の発令後、矢継ぎ早に実施された。
国家緊急事態令が発令された1ヶ月後の2020年4月21日に発表された調査会社イプソス社の世論調査では、「この国家緊急事態令の発令により回答者の42%が仕事を失った」との調査結果があることからわかるように、多くのペルー人が雇用を失い、健康面だけでなく、経済的な不安を抱えた。
ペルーでは非常に厳格なロックダウンが3ヶ月間にわたって適用されたにもかかわらず、新型コロナウイルスの感染者は増え続ける一方の状況が続いた。ロックダウンが数ヶ月にわたって継続されたということは、労働人口の約7割がインフォーマルセクターで収入を得ているペルーでは、多くの人が外に出て働けず、日々の収入がなくなり、生活できなくなることを意味した。
政府がどんなに外出規制を厳しくしても、違反して外出する人が絶えなかった。それがペルーにおいて感染が拡大する大きな要因となった。その後、徐々に新型コロナウイルス関連の規制が緩和されてきたが、医療体制の脆弱さを抱えるペルーは、新型コロナウイルス感染者の死亡率が人口比で、世界で最も高い国となってしまった。
コロナ禍における日系諸団体の新たな試み
新型コロナウイルスの世界的大流行前のペルー日系社会では、ペルー日系人協会を中心として、県人会や市町村人会が主にリマ首都圏において、非常に活発に対面形式の活動を行ってきた。
しかしながら、新型コロナウイルスの世界的大流行によるロックダウンという事態に直面し、日系諸団体は突然の変化に今後の活動のあり方を模索する必要に迫られた。そこで、イベントのオンライン化をはじめとする、新たな状況に対応を試行錯誤する動きが始まった。
まず、ペルー日系社会の中心となる組織であるペルー日系人協会は、新型コロナウイルス感染拡大によりリマ首都圏において社会・経済的に弱い立場にある住民を支援するためのペルー日系人団結キャンペーン「ペルーがんばれ!」をはじめとする様々なプログラムを実施し、社会支援を重視する方針を明確にした。
また、各県人会や市町村人会では、主に情報テクノロジーに強い青年部など若い世代が中心となり、例年行われていた父の日、母の日のお祝い、新年会などの行事などをビデオ会議アプリ「ZOOM」や、SNS配信サービス「フェイスブックライブ」などを通じて、オンラインで会員が繋がり合える仕組みを整えた。
その中でも、ペルー沖縄県人会では、日系人の家族、ペルー沖縄県人会館の利用者、また関係者らに安心を提供することを目的として、質の良い野菜、食料雑貨、清掃用品、日本の食品などのデリバリーサービスを新たに開始するなど、収入源が制限される環境下で、活動内容の再編を行った。
新型コロナウイルスの世界的大流行の中で日系社会においては、オンラインの特性を生かしたイベントも多く行われた。
例えば、オンラインの特性を生かしたイベントの一つとして、ペルー山形県人会と紙芝居倶楽部がビデオ会議アプリ「ZOOM」を通じて実施した「紙芝居でペルー日系人の歴史を学ぼう!」がある。
同イベントは総務省の中南米日系社会と国内自治体との連携促進事業の枠組みにより実施され、ペルーや日本の山形県などから約60名が参加した。
紙芝居は「ニッケイ・プライド」というタイトルで、ペルー日系人の歴史における様々なテーマを、その当時の写真や資料をふんだんに使い、紙芝居のイラストと登場人物のセリフによってわかりやすく日本語とスペイン語でドラマ風に語り、紙芝居の発表後には日本からもペルーからも非常に良い反響が寄せられた。
ペルー日系社会における対面形式の活動再開
2022年5月現在のペルーは、物価上昇や政情不安の問題を抱えているものの、経済は回復基調にあり、新型コロナウイルスワクチンの接種が進む中で、徐々に新型コロナウイルス関連の規制が緩和され、5月1日には2年ぶりに日系人大運動会が対面形式で実施された。
「再会の運動会」と命名された今年の運動会には招待客、家族連れ、スポーツ選手、日系人学校の児童・生徒、教員、日系諸団体の代表者など約8千人が参加し、2年ぶりの再会を心から喜び合った。
現在、日系人大運動会が対面形式で実施されたことを契機に、ペルー日系社会においては対面形式でのイベントが徐々に再開されてきている。
コロナ禍によりペルーの日系社会は大きな変化に直面したが、イベントのオンライン化などの経験を通して学んだことは、今後、対面形式の活動に戻ってからも十分活かしていけるだろう。
筆者略歴
都丸大輔(とまるだいすけ)。青森県生まれ東京都育ち、将棋三段、日本語教育能力試験合格。日本では教育委員会の嘱託職員として外国人児童の日本語教育、学校生活の支援に取り組むとともに、スペイン語圏話者向けの個人レッスン専門の日本語教師、スペイン語通訳に従事。2012年からペルーに定住し、個人レッスンを中心とした日本語教育に携わりながら、ペルーにおける将棋普及活動に取り組む。2017年からはペルー日系社会のためのスペイン語と日本語の二カ国語の新聞を発行するペルー新報社(https://www.perushimpo.com/)の日本語編集部編集長に就任。2021年からはねこまど将棋教室の将棋講師として、オンラインでの将棋の普及活動にも取り組んでいる。