「10月に開催される世界のウチナーンチュ大会で配布する。世界の皆さんに知ってほしいと思い編纂しました」。サントス強制退去事件を特集した『群星 別冊』(日ポ両語)が4月に刊行され、編集作業をしたブラジル沖縄県人移民研究塾の宮城あきら代表、島袋栄喜元沖縄県人会長、高安宏治さんが17日に編集部を訪れ、趣旨を説明した。
ブラジル沖縄県人移民の足跡を記す『群星』は、2015年に創刊され、3号から最新7号には、サントス強制退去事件の証言が16人分掲載されている。それらをまとめ、新原稿を加えたものが今回の別冊だ。
サントス強制退去事件とは、第2次世界大戦中に発生したドイツ軍潜水艦によるサントス沖商船沈没事件に対して、連邦政府が枢軸国側移民をサントス市から24時間以内に強制退去するよう命じた事件のことを指す。
強制退去命令が出された1943年7月8日、サントス市の枢軸国側移民はその大半が日本人移民だった。その人数は6500人にもなり、その内6割が沖縄系だった。彼らは長年働いて得た土地や家財をただ同然で投げ売りせざるを得ず、カバン一つで列車に乗せられ、サンパウロ市へと追い立てられた。
屋比久トヨ子さんの証言では、《私の一番の苦しい思い出は、私の姉静子があの事件のショックで恐怖症を患い、生涯精神障害で苦しんだことです》(97頁)などの告白が行われている。
同誌掲載の「サントス事件の背後にいた米軍 大戦の行方を左右したブラジル」(深沢正雪)、「1942―43年:サントスの町から約6500人の日本人が追放された事件」(奥原純マリオ)、「移民史から沖縄を問う」(山城千秋)、「映画『オキナワ サントス』を制作して」(松林要樹)は本誌初公開原稿となっている。
ドキュメンタリー映画『オキナワ サントス』を制作した松林監督の文章からは、歴史にほぼ残されていなかった同事件を描いた際の困難さが伺われる。同誌掲載の古杉征己さんによる映画感想文には《丁寧な取材を重ねて集めた取材だからこそ、一つ一つの言葉の意味が重い。長年誰にも言わず、胸の奥に閉まってきた思いが、多くを語らずとも視聴者には伝わってくるのだ》とある。
宮城さんに別冊を作った動機を尋ねると「松林監督の映画と同時に文字でも読めるように残しておくことが大事だと思いました。我々のこの6年間の調査活動の総括でもあります」と説明した。
島袋さんは「我々のインタビューを一緒に聞いていたから家族から、『私たちも初めて聞いた』という声をよく聞いた。日系人もブラジル人も知らない歴史。強制退去の体験者はみな90歳以上。貴重な証言者のうちの5人がすでに亡くなられている。今やらないと記録が消えてしまう」とこの調査の重要性を強調した。
高安さんは「日本の戦争によって、日本移民はサントスから強制退去させられた。同じ理由で、ペルーにいる叔父は戦争中に米国に強制連行された。彼はその後、日本に帰ったが『もう昔のことは思い出したくない』と語らなくなった。カナダや米国の日系人も同じ目に遭っている。戦争が起こした悲劇を忘れてはいけないと思います」としみじみ語った。
同誌は現在翻訳中の英語版などともに10月の世界のウチナーンチュ大会で配布する予定。本紙編集部では日ポ版を、編集部まで取りに来れる人にのみ、50レアルで代理販売している。