6月30日、無謀な内容と見られることから別名「カミカゼ」法案とも呼ばれる、412億5千万レアルの福祉関連の憲法補足法案(PEC)を上院が承認した。社会福祉政策「アウシリオ・ブラジル」の支給額増額など、再選を狙うボルソナロ大統領や議員たちに有利になる政策だが、「選挙対策のために支出上限法や選挙法を破る」との批判の声も出ている。6月30日、1日付現地紙、サイトが報じている。
PECカミカゼは、数カ月前から浮上していた内容を拡大した上で審議された。当初は連邦政府の支出上限を大幅に破るものとして物議を醸した。また、選挙直前に特定の候補や有権者を優遇する内容の政策を採用することは選挙法で禁止されている。
これを可能にするためには公衆衛生分野の非常事態宣言が前提となるが、新型コロナウイルスのパンデミックによる非常事態宣言は5月に解除されたばかりだ。
報告官のパウロ・コエーリョ・ベゼーラ上議(民主運動・MDB)は、再度の非常事態宣言を行うための理由に「経済の混乱」をあげた。ウクライナ危機やそれに伴う原油価格高騰による燃料代値上がりがそれに当たると目される。
だが、反発が多いと思われた法案は委員会を経ずに本会議にかけられ、あっけなく承認された。最初の投票は72対1、2度目も67対1の圧勝だった。唯一の反対票は、「選挙対策であることが明白で、財政上の問題も生じさせる」と主張したジョゼ・セーラ上議(民主社会党・PSDB)が投じたものだ。
投票では、大統領選でボルソナロ氏と争うことになるルーラ元大統領の労働者党(PT)上議7人や、同じく大統領候補のシモーネ・テベテ上議(MDB)も賛成した。
上院を通過後の同法案は下院に回るが、アルトゥール・リラ下院議長は連邦政府最大与党のひとつの進歩党(PP)所属で、承認が確実視されている。
上院がPECカミカゼを承認したことで、連邦政府が望んでいたアウシリオ・ブラジルやガス代補助の支給額増額や家族農からの作物買上げ策(アリメンタ・ブラジル)拡充、ガソリンとの競争力を保つためのエタノール価格抑制策などに現実味が出てきた。トラック運転手やタクシー運転手への手当創設の道も開かれそうだ。
アウシリオ・ブラジルは現時点で400レアルが毎月支給されているが、これをコロナの緊急支援金の初期段階で払われていたのと同じ600レアルとし、受給希望者でできた長蛇の列も解消が可能になる。この額は国民にも人気があった。
ボルソナロ氏の支持基盤の一つでもあるトラック運転手には1千レアルの引換券を充てる予定だ。トラック運転手への優遇は選挙法違反の恐れがあり、燃料代高騰対策PECを提出する予定だったが、このPECで代用される。PECカミカゼにはアウシリオ・ガスやタクシー運転手支援、エタノールへの税金抑制策も含まれる。
また、高齢者が公共交通機関を無料で利用するのを保障するための資金にも25億レアルが計上されている。
あまりに歳出上限を無視したバラマキ政策のため、ボルソナロ大統領も最初は難色を示していたというが、大統領選の世論調査で2位に甘んじ、背に腹はかえられなくなったといわれている。
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