「俺はこの滅茶苦茶な雰囲気についていけない・・・」――6月19日に開催されたLGBTQ(性的少数者)パラード(通称「ゲイ・プライド・パレード」)に取材で紛れ込んだ時の率直な感想だ。もちろん、参加者の大半はパレートの主旨に賛同したきちんとした人たちだった。でも、中にはお祭り騒ぎを楽しみたいだけの人達もいたようだ。
同パレードは毎年サンパウロ市のパウリスタ大通りで行われていたが、コロナ禍によるイベント規制で2年間開催ができなかった。
予め伝えておくと、コラム氏には特にそっちの気はない。そして偏見もない。LGBTQパレードは世界各国で行われているが、ブラジルのパレードは世界でも1、2を競う規模とのことで「どんなものか」と思い、潜入した。
当日のパウリスタ大通りは、ゆっくりと進む街宣車を中心に人々がギチギチに密集していた。主催者発表では400万人が参加したという。街宣車から遠ざかれば、人間距離は保つことができた。
昨年9月にパウリスタ大通りで行われた右派デモには、約12万5千人が集結したと言われている。そこにも紛れ込んだが、今回のLGBTQパレードよりも人が多かった印象がある。参加者400万人は少しばかり数字を盛っているように感じた。
LGBTQのアイデンティティを持つ参加者やその支援者は左派が多い。大統領選が近いこともあり、ルーラ元大統領を応援する旗や右派のボルソナロ大統領を批判する言動が目立った。LGBTQに対する偏見への抗議や平等の権利を求める活動も各所で見られた。
パレードでは、LGBTQ歌手のパブロ・ヴィタール(Pabllo Vittar)が街宣車上で歌唱を披露。参加者のハート(心臓)を物理的に震わせるほどの超絶大爆音だ。近隣には病院が多いことから、入院者は大丈夫かと心配になったほど。パレード参加者は思い思いに着飾り、ダンスで自分のアイデンティティを表現するなどかなりの盛り上がりを見せていた。
一方で、当日の大通り沿い商店は大多数が休業。ショッピングセンターですら休業していた。普段なら日曜日は儲け時として、ほとんどの店が営業しているにも関わらずその状態だった。「何故だろうか…」と最初は首をかしげていたが、すぐにその理由が理解できた。
ふと少し脇道に目をやると、なんと立小便や野糞をしている人がそこかしこにいるではないか。スーツ姿のビジネスマンが目立つ、南米一の金融街の日常からは考えられない光景だ。簡易トイレも各所に設置されていたが、我慢できずにその横で用を足している者もおり「これでは店も開けまい…」と心の中で頷いた。
さらに参加者の『自由』な振舞いは続く。「今日は法律関係無しでよろしく!」と言わんばかりに、路上飲酒やたばこ、堂々と大麻を吸う者もおり、路上にはそれらのゴミが散乱していた。
これまでにも取材で、大規模政治デモに潜り込んだことがあるが、それらとは比較できないほど路上にゴミが散乱している。割れたビンや食品の袋、使用済みのコンドームまで落ちており驚愕した…。
市役所はこの惨状を予期していたのか、20台ほどの特別清掃車と約200人の清掃員らを用意し、パレード後に出来たゴミの轍を黙々と掃除していた。
2年間開催できなかった鬱憤を晴らすかの様な参加者らの熱狂ぶりと大爆音。パレートの主旨自体は立派だが、なにせマナーが・・・。あたりに散らかる大量のゴミと脇道の糞尿。酒とたばこと大麻の入り混じった匂い。「俺には合わない…」とぽつりとつぶやき、足早に帰宅した。偏見は無いが、『自由』とは何なのかを考えさせられた体験だった。(淀)