【既報関連】「ブラジルに対する中国とロシアの防犯技術の売り込み方は凄まじいですよ。日本のアピール力を1としたら、中露は100の力で来てますね」と日本の防犯IT企業『Singular Perturbations(SP社、シンギュラー・パータベーションズ)』の常盤木龍冶ブラジル事業部長は語る。
現在、防犯カメラの顔認証機能を用いた犯罪者追跡技術や、AI(人工知能)を用いた犯罪発生予測技術が発達し、各国の治安当局は最新技術の導入を進めている。
ブラジルには既に中国やロシアが国策として自国の防犯技術を強力に売り込んできており、「弊社の犯罪発生予測技術は日本最高、世界最高峰のものであるとの自負はあります。しかし、中露を始めとする世界の競合を相手に、ビジネスとして軌道に乗せることは技術開発とは別の困難さがあります」と語る。
SP社は地域の犯罪統計情報から未来の犯罪発生地点を予測するコンピューターシステム『Crime Nabi(クライムナビ)』を開発し、防犯技術需要の高い海外への展開を進めている。6月16日にはSP社共同創業者の梶田晴司さんと常盤木ブラジル事業部長が来伯。7月12日まで滞伯し、ミナス・ジェライス州軍警と同システムの導入に向けた実証実験などを行っている(7日付け本面詳報)。
防犯ビジネス的観点から見た時、ブラジルは魅力的な国だという。アジアの先進国は犯罪率が低く、最先端防犯技術の恩恵を感じ難く、一方でアフリカなどの途上国では最先端防犯技術を運用する行政能力が足りない。ブラジルは防犯効果の恩恵の感じやすさ、行政能力、そして市場規模がある。常盤木ブラジル事業部長は「ブラジルは良い国です。しかし、経済や教育などあらゆる分野で治安の悪さが影を落としています。弊社を始めとする日本の防犯技術が活かされれば、ブラジルは両国の絆でより良い国になると確信しています」と言う。
SP社は新興のIT企業で、海外進出を行うクラスの一般企業と比べ、資本体力が少ない。海外進出した企業が、その地で収益をあげられるようになるまでには、少なくとも5年はかかると言われており、梶田さんは同業者から「資金は持つのか?海外進出は止めておけ」と制止されたという。とりわけ、「海外での仕事では『コネ(強い人脈)』が無ければ絶対に失敗する」と警告も受けた。
梶田さんは「確かに私たちには『コネ』はありません。しかし、ブラジルにおいては、知り合う方々の心の中に、日本に対する強い信頼感がありました」と話す。常盤木事業部長は、「中露企業が業界を席捲する中、新興の我々がミナス軍警との実証実験まで漕ぎ付けられたのは、日系人の方々が長年にわたって築き上げられてきた信頼があったからですね」と感謝の言葉を述べた。
梶田さんは「ビジネス的には無謀な挑戦に見えるかもしれませんが、日本の防犯技術を世界で役立てるための挑戦です。周囲からは巨大な風車に挑むドン・キホーテと笑われているかもしれません。しかしながら、日本と比較して約420倍の強盗事件が発生しているブラジルの治安課題解決は、私達にとって避けて通れない道であり、ブラジルの更なる発展のためにも大きな意味を持つ挑戦であると私達は信じています」と語った。