マイナンバー的制度はブラジルの方が先進国
北国の温泉郷にも初夏の兆しが日毎に漂い、里山には生きる息吹がみなぎる頃かと思います。貴兄には相次いで姿を変え、発症しては衰退を繰り返えして止まない、コロナ禍の波状攻撃にもめげず、ご健勝の事と遠くブラジルより拝察致します。
老骨の私にはコロナ禍ばかりでなく、15年ほど前に一度感染したデング熱、悪性インフルエンザ等も交えた三つ巴の感染症に対処するには、単なるワクチン接種だけでは心許ないので、在宅自粛に徹して外出禁止に伴う市街地との隔離生活を未だに余儀なくされています。
NHK国際放送を通して、ブラジルから日本でのワクチン接種プロセスを俯瞰しますと、日本在住の成人でワクチン接種の希望者には、事前にマイナンバーの取得をある程度の強行手段を駆使してでも施行すべきだったと思います。
日本で2015年10月に施行されたマイナンバー制度は、行政の効率化を図り、国民の利便性を高める社会基盤として導入されたはずでしたが、施行から6年が経過した昨年末の普及率は、全国第1位の栄冠を得た行政でさえ60%と低調でした。
何とマイナンバー取得者には5千円の商品券を、また第1位の某自治体は2万円相当のポイントを報奨金として交付したとの事でした。国民自身の利便性を高める社会基盤として導入された制度に、何故これほどまでの代償を遣わねばならないのか、またその税金の冗費を容認した市民の「貰わにゃ損」の浅ましさには驚き、失望しました。
一方、我々ブラジル在住者のナンバー普及率は高いです。ブラジルで生活するには何種類かの終身ナンバーを所持する事は必須条件で、私はブラジルに移住後、先ず当時の外国人登録証RNEに次いで、納税証明書CPFが交付され、更に運転免許証に記載されている終身ナンバーの3種を、行政や銀行や商業活動関連の社会的な義務や権益を施行するのに使い分けています。
ブラジルはとっくにマイナンバー無しでは生活できない社会の仕組になっています。以下断片的ですがブラジル事情の一端をご理解下さい。
脱税や不況まみれだが、天災が少ないブラジル
ブラジルは誠に〝大らかな国〟です。世界に名だたる汚職、脱税、経済不安等国政への風当たりは強いですが、政治家や高級官僚は違法行為をして収監されても刑期を全うすること無く、いつの間にか無罪放免となり釈放され社会復帰するのが常套手段でまさしく役人天国です。
しかし、私は生来の放浪癖が疼くや様々な国々を徘徊しての所見では、住めば都とは云うけれどブラジルくらい住み易い国は無いと事ある毎に吹聴しています。恐らく万人が羨望する「ブラジルの良さ」とは、先ず何と言っても世界共通の天災である豪雨、洪水、旱魃、山林火災以外の地震、台風、津波、噴火が発生しない天災の少ない事です。
次いで時節柄ロシアのウクライナ侵攻を始め、アフリカや東南アジアでの民族闘争、中国の国境紛争など戦争の恐怖の無い事です。
ブラジルは南米11カ国中9カ国との国境を接していますが、国境紛争はほぼ無く、何世紀も前から周辺諸国を交えた民族間闘争の内戦に明け暮れた好戦的なスラブ系のロシアとは異なり、ブラジルは民俗学的にも地政学的にも戦争の勃発する兆候は無いとその道の識者は指摘しています。
ブラジルで最も多い民族のラテン系は意外にもここでは温厚で、万事アバウトですが楽天的で人生を楽しむ事が信条で、小柄な美人が多く、多民族融合による移民国家の為か人種差別が殆ど無いのは悦ばしいことです。
勤勉、信用、勉学をモットーとした日本移民先人の無形レガシーにより、日本人は別格と見做され、「差別」よりはむしろ日本人だからと一目置かれる対人処遇を感じるのが常です。
ブラジルの一般庶民は社会道徳を尊守していて街角には乞食は沢山いますが、繁華街での暴力団の抗争、酔っ払い、喧嘩は殆ど見られません。日本では電車の乗客それぞれの思惑の視線が逆に気になりますが、ブラジルで若者が車内で老人やご婦人にさりげなく席をゆずる姿は微笑ましいものです。反面、ブラジルではやたらとお喋り、落書き、ゴミのポイ捨てが多く、この点は未だ後進国です。
砂漠の商人の末裔のアラブ系は生来の話術に長け、商談や政略では堪能な弁舌を盾に、政界や公的機関の重鎮の多くを占めているので、万一ブラジルの国内外で紛争が起きた際は武力でなく対話による解決が期待されます。
気候温暖で食べ物豊か
私は日暮し時間を持て余し、日本人特有の「もったいない、もったいない」を未だ「断捨離」出来ず、貧乏根性を異国生活60年を経ても払拭できておりません。溜まりに溜まった不用品の処分や、仕事で撮りまくった約4万枚の記録写真の分別とコメント付記、そして自分史の執筆が当面の主要な日課です。
その他、日々の留意点としては長生きするには食事、運動、睡眠が必須条件との巷の至言を頑なに信じて日々精進しています。その実践に至るまで経緯を列挙します。
先ず食事について。ブラジルはケッペンの気候区分でいう寒帯を除く温帯から熱帯を有し、国土面積は南米大陸の約半分の850万km²(日本の23倍)、東西4319km、南北4394km(日本からインドネシアのバリ島への距離)あります。農耕地はその内66%(日本の15倍)余りです。
穀類の自給率は104%で、世界中の穀物や野菜や果物の多くが国内のどこかで収穫されています。畜産は人口2億人よりも多い頭数の肉牛が飼育されています。
アマゾン河の流域距離とほぼ同じ約6500kmに及ぶブラジルの大西洋沿岸の中程に突出した南米大陸最東端のサンロッケ岬の沖合は、南北の海流の潮目であり南マグロの豊かな漁場です。
一方、アンデス山塊を分水嶺とするアマゾン河やラプラタ河水系に流れ込む、多数の支流河川や湖沼、そしてパンタナル湿原やグアラニー帯水層等潤沢な水資源に恵まれ、人為的な内水面養殖と相まって淡水魚の漁獲量は年々嵩じ、今やブラジルは海水魚より淡水魚の方が国内市場や輸出量を多くしました。
10年程前私は、ブラジル日系2世の青年2人が私の母校、鹿児島大学水産学部で研修留学をする協力をしました。現在彼等はアマゾン河流域での輸出目的の大型淡水魚の養殖業界重鎮として活躍し、前途洋々たる抱負を担っています。
東京豊洲や太田の魚類、青果市場で見受ける生鮮食品のうち、秋刀魚と鰻以外は多少の品質の差はあれサンパウロの公設市場でも入手は可能です。鰻は地球規模で評価される最高に美味で滋養強壮の長老の好む食材で、とりわけアマゾン河流域に生息するマパラと称す鰻もどきの蒲焼は逸品です。
パンデミック以前は年に何度となくアマゾン河流域での熱帯有用植物や水産資源の探求に訪れていたので、連日朝昼晩マパラの蒲焼三昧を満喫できたのは至福のひと時でした。
日本移民の神業的努力のおかげで和食材料豊富
世界80数カ国の民族から成る移民国家ブラジルに於ける、伝統ある各民族の食文化が融合し、土着した一名モザイク食文化に対し、日頃変化に富む多彩な食材を堪能できる日系人の食生活は一際突出した特異な存在です。日本食は栄養学的にも頗る理に叶い、異国情緒漂う食卓での味覚、視覚、触覚、臭覚等の嗜好の多くを満たしてくれる充実した献立は、移民生活の家族団欒の潤い、仕事への活力、病への癒しを付加してくれ、日本食の真価は異国にあってこそ、様々な人の嗜好や角度から評価され、称賛されるものと思います。
今やサンパウロ市内の繁華街には約3千軒の日本食レストランが軒を連ねています。現地人の好む断トツの日本食はチリ産サーモンをネタにした寿司ですが、私の好物は北伯サンロッケ岬の沖合いの潮目で漁獲された南マグロの鉄火丼です。
店頭を彩る各種日本製食品は、昨今の為替レートが近年に無い未曾有の円安ドル高で大分高価になりました。しかしブラジル産の味噌、醤油や納豆、豆腐、各種漬物や10種に及ぶ日本米等は、現地生産者の長年に及ぶ日本産に「追い着け、追い越せ」の努力が功を奏し、日本産から現地産へ移行しても多少の違和感を受ける程度です。
これら潤沢な食生活がもたらされた、数々の日本食由来の食材発祥の歴史的背景には、我々農業移民先達がプラントハンターとして母国や移民船寄港地から導入した品種があります。しかし、多くの品種は家長の農事に対する旺盛な探究心を礎にする在来種の品種改良です。貧困や疫病と戦いながら家族が一丸となり田畑での労苦に耐え、他の民族の追従を許さぬ「神業」を醸成した史実に起因する民族遺産を継承した恩恵に尽きると思います。
一方学士様は、我が身には叶わなかった高等教育をせめて子弟には成就させたいとの親心子を知らず、ひたすら息子の卒業を鶴首していた両親の苦労の甲斐なく、世代交代の風潮に同調して帰郷する事無く、都会暮らしに甘んじています。農家の方々は後継者の確保に苦労されているようです。
運動とモリンガ、コパイーバで健康維持
次の課題である運動については、在宅自粛の身でもあるので動物園の檻の熊宜しく宅地内を往来し、朝晩の合計歩行数を7千歩と設定しています。更には単に歩行するだけでなく肢体共々の全身運動と欲張り、小学校での徒手体操の内、20体型ほどを想い出し、100歩ほど歩行しては次々に別の体型を組入れながら、八十路も半ばを過ぎた老骨には少々無理な体操もありますが、iPhoneの歩行積算計の数値に励まされ頑張っています。
一方、成人病の予防には天啓の薬用効果に富む、アマゾン生薬のMoringa oleiferaの煎茶とCopaiba樹液を10数年来一日も欠かさず服用しています。医師からは「糖尿病予備軍」と診断されて久しいですが、お陰で未だ血圧、血糖値共に正常で、その他の疾病の兆候も自覚症状も無く、健常者と自認しています。
昨今高齢者の健康寿命の更なる延伸を可能にすると云う「腸内細菌」や「柔らかい血管」等の生成と各種疾病への対処機能の究明、更にはより活性化を促す有効成分の生成に関与する食材との連鎖が漸次解明され脚光を浴びているので、存命中にこれらの食効にあやかりたいものです。
そして睡眠は約1時間の午睡後は執筆や往復書簡の送受信、そして夕食後はYouTubeから流れる演歌に誘われ、聞くに堪えない音痴の声色を口ずさみ、時には綾小路きみまろ漫談に笑いこけ、また動画に映る国々を旅した往時の想い出の街角や山河を偲んだり、ウクライナ軍の戦況や今を時めく大リーグの大谷選手の投打に一喜一憂しながら10時頃には睡魔に取付かれ、今日もいつしか過ぎて行きます。
日本も第7波の新型コロナ禍が到来との事、ご自愛ください。(7月記)