感染者数が急増しているサル痘について、巷では真偽不明の情報が出回り、人々を不安にさせている。サンパウロ日伯援護協会傘下の日伯友好病院などに勤め、これまで2人のサル痘患者の治療にあたった感染症専門医の田中アーノルド・トヨカズ医師(41歳、3世)にサル痘の特長と予防法について聞いた。
田中医師は、サンパウロ州サンベルナルド・ド・カンポ市で生まれ、2007年にリオ・デ・ジャネイロ州立大学(UNⅠRⅠO)医学部を卒業。サンタマルセリーナ病院で研修し、イスラエル科学大学アルバート・アインシュタイン校大学院を卒業した。現在は日伯友好病院とサンパウロ市サンタカタリーナ病院の感染症専門医として勤めている。
田中医師によれば、主なサル痘の感染経路は、感染者の病変した皮膚や体液との接触(性的接触を含む)、患者と接近した状態での会話による飛沫感染、患者が使用した寝具を経由した感染などだという。空気感染を起こした事例は確認されていない。
感染予防には、感染者が使用した可能性のある服や寝具、タオル、食器の消毒や、手洗いやアルコール消毒での手指衛生の維持、げっ歯類等のほ乳類(死体を含む)との接触回避、野生の狩猟肉を食べたり扱ったりすることを避けることを挙げた。
サル痘は当初、男性(特に同性愛者)に多く感染が確認されたことから、主に男性が感染する感染症と思われていたが、近ごろは女性や子供にも感染が確認されている。
サル痘の主な症状は発熱、頭痛、リンパ節腫脹、筋肉痛など。発熱からおよそ3日間のうちに発疹が顔や四肢に現れる。リンパ節腫脹は主に顎下、頸部、鼠径部に多くみられる。現在、確立された治療法はなく、軽症者には対症療法(病気の原因に対してではなく、症状を軽減するための治療)を行い、重症者には投与剤を使う。免疫不全者、臓器移植者、がん患者、血液疾患患者、HⅠⅤ患者、子供、妊婦は重症になりやすく、妊婦に関しては流産する恐れもある。
田中医師が治療した2人は、発熱と腕に発疹のある軽症患者で2~3日で退院した。
サル痘は新型コロナウイルスと比べ、伝染力は弱いが、性的接触でも感染するので、感染疑いのある不特定多数との接触は避けたほうがいい。
パンデミックになる恐れはあるが、コロナと違い、すでにワクチンと予防方法が分かっているため、パンデミックになっても、コロナほどの社会的混乱は起きない。後遺症が残るおそれは現在確認されてなく、重症化した例も少ない。
現在承認されているサル痘のワクチンは世界で一つしかなく、デンマークのバイオ医薬品企業ババリアン・ノルディック社のもの。同社の天然痘のワクチン「インバネックス」がサル痘のワクチンとして使われている。
しかし、コロナワクチンと違い、生産量が少ないため、濃厚接触者や感染者の家族だけが接種する。伯国でもオズワルド財団がワクチン生産の準備を行っているが、まだ承認されてない。70年代までは、多種の天然痘ワクチンが生産されていたが、80年代に天然痘根絶が宣言されて以降、ワクチンの生産は止まった。
サル痘の起源は、サルではなく、リスやネズミなどのげっ歯類。1958年にデンマークに輸入された研究用のサルの集団で初めて原因ウイルスが発見されたことからサル痘と呼ばれる様になった。
1970年にザイール(現コンゴ民主共和国)で人への感染が初確認され、中央アフリカから西アフリカにかけて流行した。過去に、他の国でも数例確認されたが、現在の様な流行はしなかった。
田中医師は「人間が野生動物のテリトリーを侵したことで、感染が広まった」と語った。
感染疑いのある人は、病院でサル痘用PCR検査を受け、結果がでるまで7日間隔離される。陽性だった場合は、21日間の隔離となる。その後、濃厚接触者と家族の検査がおこなわれる。