沖縄県人会・ブラジル沖縄文化センター(高良律正会長)は21日、サンパウロ市リベルダーデ区の本部会館大ホールで、サントス強制退去事件を描いたドキュメンタリー映画『オキナワ サントス』(松林要樹監督)の上映会を行った。沖縄県系人を中心に約500人が来場し、立ち見や二階席から見る人も出るなど異例の大入りとなった。同県人会によってポルトガル語の字幕が付けられ、知人や親戚が画面に登場して、自分たちが聞いたこともない話を語る姿にじっと見入っていた。今後、約30ある県人会支部などを中心に、各地を巡回上映する予定。
上映会冒頭では、沖縄戦犠牲者と開拓先亡者へ1分間の黙とうが捧げられ、挨拶に立った高良会長は「これほど大勢の人達が、サントス強制退去事件に対して関心を持ってくれていることがとても嬉しいです。この事件は戦争が招いたもの。上映会を通じて戦争がもたらすものが何なのかを改めて考えてほしい」と述べた。
「この話は今まで家族にも話したことがなかった」――映画の登場人物の一人がそう語る様子に、来場者が目をぬぐう姿があちこちで見られた。サントス強制退去事件とは、第2次世界大戦中の1943年7月8日、ブラジル政府がサントス沿岸在住の日本移民585家族約6500人(うち、6割以上が沖縄県人移民)に、24時間以内の強制退去命令を出し、当時の日系社会に大きな混乱を招いた事件を指す。大戦中、日本とブラジルは敵国同士となり、サントスに住む日本人移民たちは「スパイ通報」という無実の罪を着せられ、住み慣れた街を着の身着のままで追い払われ、苦渋の生活を余儀なくされた。
サントス強制退去事件発生から約80年が経過したが、一般にその事実はほとんど知られず、歴史の暗部に置き去りにされたままの状態が続いてきた。『オキナワ サントス』では、強制退去命令を実際に受けた犠牲者の貴重な証言をまとめ、事件の実像に迫った。同県人会は、ブラジル政府に対して、賠償を伴わない被害者への謝罪を求めている。
サントス強制退去事件発生から約80年が経過したが、一般にその事実はほとんど知られず、歴史の暗部に置き去りにされたままの状態が続いてきた。『オキナワサントス』では、強制退去命令を実際に受けた犠牲者の貴重な証言をまとめ、事件の実像に迫った。同県人会は、ブラジル政府に対して、賠償を伴わない被害者への謝罪を求めている。
上映会には予想を超える来場者があり、子供らはスクリーン前の床に座って鑑賞した。
本編上映後、松林監督のビデオメッセージが披露された。松林監督は映画作成の経緯について説明した後、沖縄戦と第2次世界大戦がブラジルへ及ぼした影響について語った。当初は上映会に来伯参加する予定だったが、コロナ禍の影響により実現できなかった旨を侘び、「皆さま、映画を見てくださって本当にありがとうございました」と来場者に感謝を述べた。
上映会後には、感想会が催され、映画制作に協力した宮城あきらブラジル沖縄県人移民研究塾代表、エスタード紙の奥原(おくばろ)ジョルジ編集委員、深沢正雪ブラジル日報編集長が登壇し、感想を語った。
来場者の仲村渠フェルナンダさん(27歳、3世)は、「事件自体は知っていましたが、詳細は今回初めて知りました。ブラジル政府の公式な謝罪は、事件の存在を認めるという点で非常に重要なことだと思います」と述べた。
木村はる奈さん(45歳、愛知県)は、「知らなかった歴史を知ることができてよかった。でも、政府への謝罪要求は新たな争いのきっかけになりそうで心配。互いに平和を祈ることができれば」と語った。
涙を流しながら映画を観ていた高齢日系男性は、本紙記者の取材に対し、あえて何も語らないことを選択し、ただ肩を落として会場を後にした。