サントス強制退去事件を描いたドキュメンタリー映画『オキナワサントス』(90分、松林要樹監督制作作品)の第2回目となる巡回上映会が、8月28日午後3時からサントス日本人会(中井貞夫会長)会館で開催され、会場が満杯となる約150人が詰めかけた。上映会には、当時実際に強制退去させられた橋本和英(かずえい)さん(92歳、2世)や当山(とやま)正雄さん(101歳)ら当事者も出席し、スクリーンに見入っていた。
同事件は1943年7月8日、当時の連合国側だったブラジル政府がサントス市に住んでいた枢軸国側の日本移民585家族約6500人(うち、約60%が沖縄県人移民)に、24時間以内の強制退去命令を発令。財産を失い、サンパウロ市やサンパウロ州奥地に追放された先人たちは「スパイ」呼ばわりされるなど、長年にわたって屈辱を強いられてきた。
映画は、松林監督が取材中に当時の強制退去者名簿を偶然発見したことをきっかけに、ブラジル沖縄県人会(高良律正会長)とブラジル沖縄県人移民研究塾(宮城あきら代表)の協力を得て、退去命令を受けた生存者約20人の証言を集めて実現した。
地元サントスでの上映会では、沖縄県人会サントス支部(照屋オズワルド支部長)執行部の胡屋(ごや)ジョンカルロス氏の司会で進行。サンパウロ市から出席した高良沖縄県人会長、島袋栄喜元会長、宮城(みやぎ)代表をはじめ、地元の照屋支部長、中井日本人会長、宮城(みやしろ)パウロ市議、当事者の当山さんらを紹介した。
先人への黙とう、高良会長のあいさつに続いて、この日出席できなかった上原定雄ミルトン実行委員長のあいさつ文を宮城代表が代読した。宮城代表は最初に8月21日にサンパウロ市リベルダーデ区の沖縄県人会本部で行われた上映会成功を伝えた上で、サントスにおける上映会開催の喜びと意義を説明。「事件発生から80年近くになる今日まで歴史の闇に置き去りにされてきたサントス事件はなぜ起きたのか」と問い、世界で初めてサントス事件に関する映画を制作した松林監督を称賛するとともに、当山さん、橋本さんら取材を受けた当時者をはじめ、協力を行った沖縄県人会サントス支部関係者等への感謝の気持ちを表した。
上映された作品中では、強制退去を受けた当事者たちの「辛い日々でした」「ポケットの小銭以外、すべての財産を失いました」「キンタ・コルナ(スパイ野郎)と呼ばれました」など当時の悲惨な証言が続き、会場からはすすり泣きの声も聞こえていた。
家族に連れられて参加した当事者の橋本さんは、サンパウロ州イグアッペ市で生まれた後、サントス市に長年住んでいる日系2世だ。映画には出ていないが、宮城代表らから『群星(むりぶし)』の取材を受け、当時のことを誌上で証言している。13歳の時の強制退去命令により、サンパウロ州マリリアに3年住んだ苦い体験がある。上映作品について「皆さんに強制退去のことを知ってもらって良かった」と語った。
橋本さんの孫で学生の橋本グロリアさん(24歳、3世)は、「祖父(和英さん)から以前に(強制退去のことを)少し聞いていましたが、映画を観て、他にもたくさんの人が様々な形で強制退去命令を受けていたことを初めて知りました」と話した。
なお、沖縄県人会は2019年12月にブラジル政府に対して「損害賠償を伴わない謝罪要求」をしているが、いまだ反応が無い状態が続いている。この日の上映会では「謝罪要求」に賛同する署名活動も行われ、参加者のほぼ全員となる約150人分の署名が集められた。