記者コラム=ブラジル選挙2022=移民大国ならではの選挙陣営=難民から政治家に、補佐も多国籍=〈6〉

正式な立候補発表をするジャロール氏

 8月後半は、10月2日に実施されるブラジル選挙の立候補者たちが、正式な出馬の公式発表会を各所で行っていた。候補者にとって、投票日までの重要な通過儀式である。
 日時や場所の選定に始まり、会場の環境整備など、投票日や日頃の選挙キャンペーンとは異なる緊張感が漂う日々で、特に誰を招待するかに関しては細心の注意が払われた。
 いわゆる権威者本人の出席はなかったものの、元州知事マルシオ・フランサ氏や、その妻で知事選に出馬するフェルナンド・ハダジ氏の副知事候補についたルシア・フランサ氏、知人の上院議員などからも応援ビデオメッセージが寄せられていた。
 とはいえ、公式発表会の発想や準備スタイルは、ブラジル人の好きな誕生会や様々なパーティーのノリに近く、お祭り好きな人たちには得意な作業だ。事前に招待客の人数は制限され、事前登録も行われるが、ブラジルらしく友人の友人は友人の勢いで、予定外の来客も歓迎されていた。
 筆者が補佐するアブドゥルバセット・ジャロール氏も、8月27日にベラビスタ地区にあるパン屋組合のホールで公式発表を行った。ジャロール氏は同組合のシキーニョ会長と懇意にしており、同会長もブラジル社会党(PSB)に所属し、下院議員に立候補している同志ということで会場を提供してもらうことが可能となった。
 ジャロール氏は一週間前から急ピッチで発表会の準備に入った。ブラジルをはじめ、コンゴ民主共和国、ボリビア、ペルー、シリア、モロッコなど、多国籍の補佐が連日連夜慌ただしく準備を進めていた。ジャロール氏の顔写真と候補者番号をプリントしたオリジナルTシャツの制作、サンチーニョと呼ばれる選挙後には路上に吹雪のようにまき散らされるビラやシール、垂れ幕や旗の印刷、プログラムやプロの撮影部隊への依頼など、選挙法に基づいて準備が進められた。
 選挙法に違法しないことは大前提で、例えば、イベントでは基本的に飲食物の提供は禁止、水以外は禁じられている。また、候補者が音楽ショーで盛り上げることなども禁止されている。
 ジャロール氏は自らがアラブ音楽のバンドでステージに立ってきたこともあり、アラブ人、ブラジル人を問わず音楽関係者の知人も多い。当日は難民の音楽家を招いて盛り上げることを懇願していたが、それは叶わなかった。
 ただし、招待客が自発的に歌うことは例外的に許されており、実は、以前からジャロール氏の選挙での応援歌を制作していた招待客のサンビスタが、ジャロール氏の簡単なプロフィールと投票番号を含めた一票を募る歌詞をサンバのリズムに乗せ、招待者と一緒になって歌うという一幕もあった。
 「♪…アブドゥー・ジャロール 40999に投票しよう! なぜなら彼は勝つために来た! アレッポの申し子で、ブラジル人でシリア人、シリア戦争の惨状から生き延びてきた。難民で社会問題の活動家、市民に必要なものを得るために戦う。シリアからサンパウロへ、ブラジルに帰化して議員を目指す…♪」という歌詞で、すぐに頭に残り、思わず投票番号と名前を口ずさんでしまう一興なサンバである。

 発表会当日は、ドキュメンタリー映像を制作するチリ人の映画製作者が、ジャロール氏が朝自宅から出かける様子から、発表会の現場までを密着撮影していた。選挙後に一人の難民の軌跡としてドキュメンタリー映像が完成する。
 公式発表を無事に終え、ほっと胸をなで下ろしたのも束の間、本格的に路上や知人の商店、様々な機関を訪問し、人々と対話してビラを配るなど、いわゆる選挙らしい選挙活動が強化された。
 選挙まで一か月を切り、日曜日にはジャロール氏の選挙事務所があるパライゾ地区からパウリスタ大通りに出向き、チームで行進するスケジュールも組み込まれた。当コラムで近しいブラジル日報にも9月2日に訪問し、蛯原代表や深沢編集長と挨拶を交わした。

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