ボルソナロ大統領がフリーメイソンのイベントに参加して演説していた動画が3日夜から4日にかけてSNS上で大量拡散され、カトリックや福音派のキリスト教の有権者が強い拒否反応を示す騒動となった。4〜5日付現地紙、サイトが報じている。
この動画は少なくとも2017年からユーチューブ上で存在していた。だが3日夜、メディア関係でもインフルエンサーでもないツイッターの個人アカウントから拡散されると一気に火がつき、4日未明には大騒ぎとなっていた。
「裏切られた気分よ。今までどんなことでもボルソナロ氏を擁護してきたけど、これだけは無理。もう投票しない」という、キリスト教に強い結びつきのある女性のツイートが大量拡散された。
それを受け、同様の反応が相次ぎ、「ケ・デセプソン(がっかりだ)」「トライドール(裏切り者)」「サタニスタ(悪魔崇拝者)」などの言葉がトレンドとなり、インスタグラムやフェイスブック、TikTokなどの他のSNSにも及んだ。4日の午後近くには、これを受けたメディアの報道もはじまった。
フリーメイソンは17世紀頃から存在する国際的な友愛秘密組織で、一神教の宗教の信者のみが参加を許されるため、キリスト教の参加者もいる。だが、カトリックでは1738年に「教義的に相容れない」として同団体への参加を禁止。1983年に時のヨーゼフ・ラッツィンガー枢機卿(後の法王ベネディクト16世)が文書で正式に参加を禁止した。
こうした経緯からカトリックではフリーメイソンが忌避され、「悪魔崇拝組織だ」とする人たちも少なくなかった。その傾向は福音派にもあり、メソジスト教会系などでは強く敬遠されている。
ボルソナロ氏は「神は全てを上回る」をキャッチフレーズに、強い宗教票を持っている。それだけに、「聖書の教えに背く団体と関係を持った」との思いがキリスト教信者の間で走ったようだ。
この騒動を受け、ボルソナロ氏との蜜月関係で知られるネオ・ペンテコスタル系の大物シラス・マラファイア牧師が、「これは決選投票に影響しない」と擁護。だが、そのすぐ後に、同牧師が2016年にテレビ出演した際、自身とフリーメイソンの関係疑惑を問われて感情的になり、フリーメイソンを強く罵った映像が拡散。矛盾を突かれた。
ボルソナロ陣営は同件をフェイクニュースとしようとしたが、加工や編集がほぼ不可能な動画のために難しく、一次投票前から拡散していた「ルーラ氏は悪魔信仰者」との陰謀論を説く動画拡散を加速した。そのため、ルーラ氏側はインスタグラムなどを使い、同氏がカトリック信者であることを証明することに追われた。
ルーラ氏側は今回の騒動が大きなものだと判断。この動画をボルソナロ氏に対する攻撃材料としてルーラ氏の選挙放送で流すか否かの検討に入っている。
なお、選挙高裁は2日、ルーラ氏と悪魔信仰を結びつける動画31件の削除を命令。動画掲載者の中にはフラヴィオ・ボルソナロ上議、エドゥアルド・ボルソナロ下議、マリオ・フリアス前文化相らが含まれている。
□ミニ関連コラム□
4日のSNSはボルソナロ大統領がフリーメイソンのイベントに参加した動画で持ちきりで、シロ・ゴメス氏のルーラ氏支持やロドリゴ・ガルシア・サンパウロ州知事のボルソナロ氏支持の話以上の反応を見せた。違法行為でもないことが、保守派の間でヴァザ・ジャット報道やラシャジーニャ疑惑、70万人近くに及ぶコロナ禍の死者よりも大きなスキャンダルになっていることに関してはネット上でも唖然とする声が聞かれている。だが、キリスト教の信者にとって、自分たちが長年信じてきた言い伝えに反することの方が社会的な事件より重大ということか。この予想外の展開、今後どうなる?
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