《記者コラム》大統領が再選を目指した訳=退任後の逮捕が怖かった?

1日の記者会見でのボルソナロ大統領(Fabio Rodrigues-Pozzebom/Agência Brasil)

 大統領選決選投票では通常、当選者確定直後に、落選者が当選者を祝福する電話をかけ、敗北宣言を行う。しかし、10月30日に行われた今回の大統領選決選投票では、落選したボルソナロ大統領がこれらを行わず不思議がられた。識者らは、大統領が退任後の逮捕を恐れていたからではないかと推測している。
 ボルソナロ大統領やその一家に関する疑惑は2018年選挙で当選した頃から報じられている。当時は長男フラヴィオ上議がリオ州議時代に行ったとされる幽霊職員給与のキックバック(ラシャジーニャ)疑惑や選挙戦での虚報拡散などが取り沙汰された時期。大統領はセルジオ・モロ法相(当時)に、家族や友人を守るためにリオ州連警の人事権が欲しいと要請した。これは大統領の職権や不逮捕特権を利用した自分や身内保護と見られ、大統領一家や親族の資産急増も汚職との関連があると疑われている。
 大統領は選挙関連でも18年以降ずっと、電子投票機や選挙システムへの不信感を煽る言動を続けている。これは反民主主義的行為と見なされ、選挙法に抵触し得る。今年の選挙では選挙制度を攻撃する虚報拡散は犯罪行為とされているからなおさらだ。
 また、上院の議会調査委員会が追求していたコロナ禍への対応でも責任を問われる可能性がある。ブラジルのコロナ禍による死者は68万8千人超だが、マスク着用や予防接種、外出規制などの防疫対策が適切に行われていれば40万人の死は避けられたと言われている。
 大統領は一次投票後、支持率調査への不信感提起や宗教家を利用したルーラ氏攻撃、息のかかった連邦道路警察長官が絡んだ有権者を乗せたバス検問など、あらゆる手段を尽くした。落選した日は誰とも連絡をとらず早々に休み、1日の記者会見でも明確な形の敗北宣言を避けた上、身の安全を守るために最高裁判事達と会談。所属政党で役職を得て退任後の逮捕回避を図り、元旦の大統領就任式ではルーラ氏に大統領就任帯をかけるのを避けようと画策しているとも言われている。
 福音派牧師達の支持や大統領の信仰が本物なら、敗北も神意と認め、政敵と和解し、国の統合のための行動をとってほしいと願うのは第三者の身勝手な期待だろうか?(み)

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