《記者コラム》若者の声で日本の閉塞感を打ち破れ!=21歳立候補可と投票義務制を

日本社会の閉塞感を打ち破るには

 11月に2週間ほど訪日する機会があり、7年ぶりなので浦島太郎気分を味わうかと身構えながら成田空港に降りたったが、肩すかしだった。さほど変化を感じず、むしろ活気が失われている感じだった。
 ブラジルから見て、日本社会が高齢化するに伴い閉塞感を強めている感を受ける。コロナ感染対策を見ていても、社会のあらゆる場面で既得権益の網ががんじがらめに張り巡らされ、安定と伝統の名の下に変化が抑圧されているように思える。
 もちろん、それに良い部分があることも承知しているが、やり過ぎたら元も子もない。日本には神武天皇以来、2700年近い歴史があり、世界に冠たる独自の文明を発達させてきたことは論を待たない。
 だが、時代の変化に応じた臨機応変さも重要だ。日本から来た人の名刺や、日本の会社や団体のサイトにファックス番号が書かれているのを見ると、実に不思議な感じがする。ブラジルではとうの昔にファックスは絶滅したからだ。
 どうして電子メールやラインやワッツアップなどではダメなのかと首をかしげる。日本の人はどう感じているだろうか。

日本財団調査では、自分の国の将来は「良くなる」という回答が最も多かったのは中国(95・7%)、次いでインド(83・1%)、日本は最下位でわずか13・9%

 1~2月に日本財団が行った第46回「国や社会に対する意識」調査(https://www.nippon-foundation.or.jp/app/uploads/2022/03/new_pr_20220323_03.pdf)にも数字となって現れている。
 日本・米国・英国・中国・韓国・インドの17~19歳の男女1千人ずつ計6千人に行ったもの。自分の国の将来について、日本は「良くなる」が13・9%と、6カ国中最下位だった。 日本では自分の国の将来が「悪くなる」が35・1%、「どうなるか分からない」が30・7%で、それぞれ6カ国中最悪だ。
 ちなみに「良くなる」という回答が最も多かったのは中国(95・7%)で、次いでインド(83・1%)が多い。もしこの調査に、同じく新興国で、より楽天的な気質のブラジルが入っていたらけっこう良い数字だったかもと想像する。
 日本に元気を出して欲しい、東洋の新しい息吹を発信して欲しい、そんな想いから無い知恵を絞って提案を考えた。
 ブラジルと比較して変化を起こしにくい壁の一つは、政治家の年齢が高いことだ。だから(1)立候補可能な年齢を21歳に下げる、(2)投票の義務化の2点を提案したい。
 選挙の度に、20代前半の候補者がネット上で日本の未来を盛んに論じる姿を想像してみて欲しい。若者が政治に関心を持ちにくい理由の一つは、問題意識を共有できる候補者、メッセージに共感できる政治家がいないことではないか。

生きの良い若手議員がワイワイと国政を議論

 (1)まず、立候補年齢(非選挙権年齢)だが、日本で衆議院に出馬できるのは25歳以上で、ブラジルの下院議員は21歳以上と差がある。
 詳しくいえば、日本の衆議院議員は25歳以上、参議院議員は30歳以上、県知事は30歳以上、県議会議員は25歳以上、市長は25歳以上、市議会議員も25歳以上だ。
 ブラジルで大統領、副大統領、上院議員に立候補できるのは35歳以上、州知事、副州知事、連邦直轄区知事には30歳以上だが、連邦下議、州議員、市長、副市長には21歳以上で立候補できる。市議に至っては18歳以上だ。その結果、生きの良い若手議員がけっこう登場している。

2017年3月26日、パウリスタ大通りの政治デモで演説する片桐キム青年。この年の10月選挙で当選した

 例えば片桐キム氏(サンパウロ州、26歳、ウニオン)は今年10月の選挙で約30万票を得て、サンパウロ州選出の連邦下議70人中8位という抜群の成績で2期目再選を果たした。
 彼は政治系ユーチューバーとして出発し、ジウマ罷免運動を牽引する保守系若手グループMBLの創立者の一人として注目を浴び、4年前に民主党(DEM)から立候補して46万5310票を獲得し、わずか22歳にして州4位の得票という記録を作った。
 4年前はボルソナロ支持だったが、途中で仲違いして「右翼のリベラル」という新しい政治ポジションを作りだそうとしている。あくまで第3極を希求するというあり方は将来大化けする可能性を感じさせる。
 片桐が興味深いのは、ブラジル政界にも多い二世議員とか、親が中央官庁トップという七光りではないことだ。ドラゴンボールなどのアニメ好きな趣味を活かして同世代の有権者に訴える手法には独特なセンスがある。
 さらに行政改革の必要性を常々主張しており、連邦議員特権である高級車、政治家用住宅、選挙活動費などの公費負担に反対し、使うことを拒否。現在、2人の秘書と一緒に住んで住居費を節約している。だから彼と待ち合わせをすると、ウーバーに乗って現れるのは有名な話だ。
 ただし若年立候補のリスクとしては、政治家一族の若手ほど地盤を引き継いで当選しやすいことだ。例えば、10月の選挙でパライバ州から連邦議員に当選したユーゴ・モッタ(21歳)も祖父が連邦下議、父が市長という政治家一家だ。

21歳で連邦下議に当選したアモン・マンデルのことを報じるヴェージャ誌10月6日付サイト(https://veja.abril.com.br/coluna/maquiavel/o-jovem-eleito-deputado-federal-com-a-maior-votacao-proporcional-do-pais/)

 10月選挙で注目された他の若手下議にはアモン・マンデル(シダダニア)、21歳もいる。アマゾナス州で初出馬して州有効票の14・5%を独占して圧勝した。州史上最年少の下議だ。
 2年前の地方選挙でマナウス市議に当選し、今回は連邦議員に鞍替えした。アマゾナス連邦大学で法学を学ぶ現役学生の傍らIT企業を興した。血筋や地盤のない自力当選だ。
 弱小候補なのでテレビ選挙放送の割り当てがわずか1秒しかなく健康管理の呼びかけとして「水を飲んで」しか言わず、逆に注目を浴びた。
 10月選挙で全国最多得票149万2047票を得て連邦下議に初当選したのも、26歳のニコラス・フェレイラ(PL、ミナス州)だった。
 他にも4年前に26歳で連邦下議に初当選したタバタ・アマラル(PSB)も若手有望株の一人だ。父はバスの集金人、母は日雇い家政婦という貧しい家庭に生まれ育ったが、州立高校で優秀な成績を取り、ハーバード大学に全額奨学金を得て入学して政治学を学び、首席で卒業。母国の教育を改善するために帰伯して政治家になった。
 このような人材が政界に出てこれるのは、若くして立候補できる制度があってこそだ。このような初々しい政治家が日本の政界にも登場して欲しいと感じる。
 ちなみに現在、日本の衆院議員で唯一の当選時20代だったのは福島県の馬場雄基さん(30、立民、比例東北)だ。これでは20代の声が国会に届きようもないのではないか。

投票義務化で掘り起こされる若年票

 (2)投票の義務化も重要な点だ。現在日本では有権者の50~60%程度しか投票していないが、義務になれば90%以上になるだろう。
 総務省サイト(https://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/news/sonota/nendaibetu/)によれば、昨年10月に行われた第49回衆議院議員総選挙では、10歳代の投票率が43・21%、20歳代が36・50%、30歳代が47・12%だった。全年代を通じた投票率が55・93%だから、40代以上がその分高かった。
 今年7月の第26回参議院議員通常選挙では、10歳代が35・42%、20歳代が33・99%、30歳代が44・80%。やはり全年代を通じた投票率は52・05%だから、40代以上が高い。
 このように日本の国政選挙は30代以下の投票が少なく、その分、40代以上が多い中、その平均はおおむね50~60%で推移している。
 このように30代以下の半分以上の有権者の声は投票に反映されていない。これが選挙結果に現れれば、まったく状況は変わる。言い方を変えれば、今の制度は現状を維持するための仕組みでしかなく、変革を求めるならある程度、思い切った変化が必要だ。

衆議院議員総選挙における年代別投票率(抽出)の推移(総務省サイト)

 統計データ分析家の本川裕著のプレジデント・オンライン21年11月7日付《「自民党議員よりはるかに高い平均年齢」前回衆院選より4・8歳も上昇した”あの政党” 借金膨張させる高齢政治家の罪深さ》(https://president.jp/articles/-/51580?page=1)によれば、《前回衆院選(2017年)の当選当時の衆院議員の平均年齢は54・7歳でしたが、今回は55・5歳(解散直前時は59・0歳)。閣僚の平均年齢はOECD諸国平均で53・1歳のところ、日本は62・4歳と35カ国中最も高い》とある。
 つまり、昨年の衆議院選挙当選者の平均年齢は55歳だった。今年7月の参院選に関しては、時事通信7月11日付《平均年齢56.6、最年長80歳 世襲、7割強が当選【22参院選】》(https://www.jiji.com/jc/article?k=2022071101021&g=pol)とある。当選者の平均年齢は50代半ば、世襲議員の7割強が当選する。日本はこのままで良いのだろうか――。
 ちなみにブラジルの10月選挙で当選した連邦下議の平均年齢は50歳と大幅に若い(https://www.poder360.com.br/congresso/perfil-do-deputado-eleito-em-2022-e-homem-branco-casado-e-rico/)。

今の選挙制度は現状維持に有利なシステムでは

 義務投票制度のある国にもオーストラリアのような「罰則適用の厳格な国」と、ブラジルのような「罰則適用が厳格でない国」、イタリアのような「罰則が定められていない国」の3種類がある(https://ja.wikipedia.org/wiki/義務投票制)。
 オーストラリアでは1924年の義務投票制採用以来、投票率は有権者の90%程度という高い水準を維持している。投票をしなかった人には20豪ドル(およそ2千円)という罰金が科せられる厳しい制度だ。
 ブラジルでは国民の約80%が毎回投票する。投票しなかった場合、60日以内に理由を選挙裁判所やそのサイトを通じて届け出る必要がある。それを怠った場合、投票1回分ごとに罰金3・51レアル(25円)を払う必要がある。加えて、パスポートや身分証明書の取得が出来なくなる。また公的入札への参加、公職に就任、大学や連邦大学などの公立教育機関への入学も不許可になるなどの罰則も。罰金は安いが、選挙権登録を正常化しておかないと日常生活に不便が生じる。
 日本はブラジルのような「厳格でない」タイプで十分ではないか。義務化されれば9割以上が投票するに違いない。
 日本の現状の選挙制度では、政治に対して後ろ向き、否定的、関与したくない消極派の意見は、政治に反映されない。投票に必ず行くのは現政権の支持者、現政権側に組織票を入れる人、現状を半ば肯定する気分が強い高齡者が多いから、政権には有利な制度だろう。
 政治を変革するという意味では、投票に行かない人の声こそが一番重要なはずだ。この部分の20~30%の投票が入れば、国会議員の顔はガラリと変わる。そこに20代前半の候補者が新しい空気を吹き込んでかき回せば、間違いなく政界は活気付く。
 18歳以上の全ての国民全体の声がバランス良く反映された国会議員が選ばれれば、それだけ本来の民主主義になり、政治だけでなく、社会全体、経済、文化も活性化するのでは。(深)

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