【既報関連】7日にペルーで起こったペドロ・カスティージョ大統領の議会閉鎖未遂、それに伴う罷免と逮捕は南米、そして全世界に衝撃を与えた。7~8日付現地紙やサイトによれば、この背後にはペルーの議会や憲法の脆弱さがあるが、最大の要因は方向性を失ったカスティジョ氏自身にあったとする報道が目立っている。
ペルーでは2018年にも当時のクジンスキー大統領が罷免直前に辞任、20年にもビズカーラ大統領が罷免になるなど、不安定な政局が続いていた。21年7月に就任したカスティジョ氏にはこの混乱を収めることが期待されていたが、さらなる混乱を招いてしまった。
同国の不安定さの要因としてあげられているのは、1992年に当時のアルベルト・フジモリ大統領の起こしたクーデター(アウトゴウピ)だ。フジモリ氏は当時の「議会では野党が有利」の状況を打破すべく、議会を一旦停止し、司法機能を止め、1年後に新憲法を制定した。この際に上院を廃止して一院制にし、アウトゴウピが起こしやすい憲法にしてしまっていた。
カスティジョ氏は2021年7月の就任以来、既に2度の罷免審議を受けており、今回で3回目だった。同国憲法134条では「政権が2度にわたって不信を示された場合、大統領は議会を閉鎖し、4カ月以内に新しい議会を選挙で形成することが可能」だとされている。ビズカーラ大統領も罷免される前年の2019年に134条を行使しようとして、議会から停職処分を受けていた。
また、同国議会は二院制が廃止されたままの上に、130人しか議員がおらず、87人が賛成すれば大統領罷免が成立するという、かなり脆弱なシステムでもある。
同国では、ここ30年間、大統領が異なる政党から選ばれ続けるなど、安定した政党がない。昨年の大統領選でも、一次投票で1位になったカスティジョ氏の支持率は、20%にも至らなかった。同氏自身は抗議運動を指揮して注目されて担ぎ出された小学校の教師で、それ以前の政治経験は皆無だった。
さらに、カスティジョ氏の政治信条も矛盾を孕むものだった。出馬そのものは同国の極左政党のペルー・リブレだったが、大統領選ではLGBTや中絶への反対を主張して保守派を引きつけていた。また、大統領就任後は保守派の支持する新自由主義経済路線に方向転換。ペルー・リブレはそれを理由として、今年7月にカスティジョ氏を党から追放。議会最大勢力の同党が野党に転じたことで、1日の議会でカスティジョ氏の罷免審理を行うことが決まり、7日に投票が行われることも決まっていた。
カスティジョ氏の後任にはディナ・ボルアルテ氏が副大統領から昇格。ルーラ次期大統領も「正当な法手続きを得た上での就任」として同氏の就任をすぐに承認しており、カスティジョ氏の罷免や逮捕に関して多くを語らなかった。
ボルアルテ氏の就任は「ペルー初の女性大統領」として注目されているが、同氏自身も今年1月にペルー・リブレを追放されており、今後の政局運営に不安を残している。