2022年10月30日の大統領選決選投票から1週間の11月6日、新型コロナの新規感染者の7日間平均が増加に転じた。2020年の地方選時も感染者が増え始めた後にガンマ株が重なり、感染第2波となったが、11月はオミクロン株亜種による感染者確認の報道後、感染第5波が現実化。11月26日付現地メディアによれば、保健衛生関連の移行作業班は基本的な情報さえ受け取れずに混沌(カオス)状態との報道もあり、新政権の船出の難しさを示した。
TCUが評価不能と報告
新政権は選挙結果確定後、移行作業班による情報収集や解析、閣僚指名や政策確定、予算配分などの準備を行う。これは全政権、全分野に共通する作業だが、第3期ルーラ政権は財政危機、情報危機などの中での船出を強いられた。
財政危機は、11月18日発表のパスポートの発行停止や同月21日発表の連邦道路警察の車両整備の制限、それに続く22年5回目の予算凍結などでも明らかだ。12月には年金などの支払いにも不安と報じられた。
予算凍結や年度末の予算不足は他政権でも起きたが、政権移行作業班は11月23日、連警や連邦道路警察で表出した財政危機が2023年にも欠かせない治安サービス継続を脅かすとの懸念を表明。経済省がパスポート発行用に解放した資金は必要額の半分で、12月2日にも同日中に対面式で申請手続きをした人にはパスポート発行と発表し、新たな懸念を招いた。
同様の懸念は保健行政でも発生し、連邦会計検査院(TCU)が「目標が達成できているかの評価が不能」という程、情報不足が深刻だ。評価不能な項目には、新型コロナも含む各種の病に対する国家予防接種計画(PNI)や統一医療保健システム(SUS)なども含まれている。
PNIにまつわるカオス
保健関連の移行作業班が11月25日の記者会見で明かしたカオスの一例はPNI関連で、アルトゥール・シオロ元保健相らが、ワクチンの在庫数量や使用期限などの情報が機密事項とされ、移行作業班には渡されていないと語った。
同時点までの報道では、生後6カ月~2歳児は600万人いるのに、配布済みワクチンは基礎疾患がある子供向けの100万回分だけである事、3~5歳児への適用が認められたコロナバックも100万回分しか購入していない事、国家衛生監督庁(Anvisa)が承認したワクチンがPNIに組み込まれるまでに1カ月以上を要した事、ワクチンの供給遅れで子供への予防接種があちこちで中断しており、初回接種さえ受けていない子供も相当数いる事などが分かっている。
保健省は新型コロナワクチン7億回分を保証し、5・5億回分を配布したと言うが、23年用の確保の有無、ブタンタン研究所が保管している200万回分のワクチン購入の可否は不明。6カ月~2歳児用のファイザー社ワクチンは3回接種せねばならず、1800万回分が必要だが、購入・配布計画も分かっていない。
子供への予防接種の遅れは子供の感染者や死者の増加も招いている。だが、ボルソナロ氏は10月14日に「子供が新型コロナで死ぬのを見た人はいるか」と発言して疑問を呈し、他の病気で死んでもコロナと偽り、国からの補助を受け取ろうとしているとまで語り、物議を醸した。
予防接種は対象者の90~95%が受ける事が理想だが、コロナ禍前は90%台だったポリオなどの接種率は71・49%に低下。年末か1月に使用期限が切れるワクチンや検査に関する情報も渡されていないという。
SUSや大衆薬局は?
SUSに関する問題は、診察や検査に時間がかかる事や高額治療薬を含む医薬品不足、SUSでの診察や治療を行う病院への支払などで、基礎的な医薬品を無料か廉価で入手できる大衆薬局の維持も懸念されている。
ボルソナロ政権が立てた23年度予算では医療資材などの購入や投資のための資金が42%削減されており、SUS崩壊の可能性さえ言われている。
国民の命を守るために予防接種を
12月2日付現地メディアは、2020年と21年のブラジルでの死者は前年比で15・3%と16・9%増えたと報じた。それ以前の10年間は平均1・1%増だったから、保健省の統計で20年に19万4949人、21年も42万4107人の死者を出した新型コロナの影響は大きい。
だが、ブラジルでは撲滅したはずのポリオ復活の可能性指摘や大人の麻疹患者増加、予防接種が60歳以上の新型コロナによる死者を6万3千人防いだというオズワルド・クルス財団(Fiocruz)の報告、新型コロナの感染第3波以降の感染者に対する死者の増加率の低さなどは、予防接種が多くの命を救ってきた事や、接種率低下が招き得る結果などを物語る。
PNIなどの各種のプロジェクトへの予算配分、購入資材とそれに関する情報などは公共衛生関連の政策決定に不可欠だ。国民の命を守り、経済活動を促す意味でも行政の透明性回復、適切な予算と配分が待たれている。