【2023年新年特集号】役者初挑戦の在日ブラジル人に聞く=映画『ファミリア』6日から公開=厳しい成島監督、優しい役所広司

ブラジル人団地に迎え入れられるシーン(提供=©2022「ファミリア」製作委員会)

 1990年の入管法改正から始まった在日日系ブラジル人の訪日ブームは一時30万人を超えるまでになり、08年のリーマンショック後に激減して現在は20万人前後となった。現在は、永住ビザを所有する両親の元に生まれた日本生まれ日本育ち世代が増えている時代だ。そんな在日ブラジル人との繋がりを通して、国籍や文化、境遇の違いを乗り越えた《家族》を描き出す話題作、映画『ファミリア』(成島出監督)が制作され、23年1月6日から日本全国で公開される。マルコス役のサガエ・ルカス(18歳)と、その恋人エリカ役を演じるワケド・ファジレ(23歳)が本紙のオンライン取材に応じ、日本への思いや同作出演での経験や、今後の抱負を聞いた。

 キャストでは役所広司や吉沢亮をはじめ、オーディションで選ばれた在日ブラジル人が当事者としてリアルな演技を披露している。その他に「サムライギタリスト」のMIYAVIや佐藤浩市、松重豊、中原丈雄、室井滋などの豪華メンバーが勢ぞろいだ。
 本作は役所広司が演じる主人公誠治と吉沢亮が演じる息子役の学、そして彼らと深く関係を持つ在日ブラジル人青年マルコスの3人が軸となり物語を進める。

日本生まれの外国人

 マルコスを演じたルカスは日本人の祖父母をもつ岐阜県生まれの日系3世だ。父はブラジル北東部リオ・グランデ・ド・ノルテ州都ナタールで生まれた非日系ブラジル人。母はサンパウロ州マウアー市出身の日系2世。二人はマウアー市で知り合い、2000年に訪日就労を始め、04年にルカスは生まれた。
 ルカスは5歳で保育園へ入園、翌年小学校へ入学するが、ブラジル人コミュニティーで育ち友達もブラジル人だったため、日本語が不自由で新しい環境に適応する自信がなかった。「上手く喋れないから学校で日本人と話すことに大きな不安があった」と当時を思い出す。育ったブラジルコミュニティーでは裸足でサッカーをしたり、自転車で走ったりするなどして遊んでいた。
 案の定、日本人の子供達とうまく馴染めずイジメに遭う。それは高校まで12年間続いた。中学校の部活で野球部を始めるも仲間外れにされた。学校の尿検査で1型糖尿病が見つかり、運動制限がかかり野球を止めることを余儀なくされた。
 治療を重ね、運動制限が解除されたことをきっかけに格闘技を始める。その後、ルカスはK1甲子園へ出場、静岡KICKチャレンジカップで優勝を果たした。今ではスポンサーをもち、プロ選手として活動を行っている。

自身を受け入れルーツを探る

マルコスとエリカ(提供=©2022「ファミリア」製作委員会)

 エリカ役を演じたワケド・ファジレはブラジル、アマゾナス州都マナウス生まれのレバノン系ブラジル人。母親が日系ハーフと再婚し、9歳の時に親と共に訪日した。
 4年後、13歳の頃に名古屋のブラジル人が多く所属していたモデル事務所に所属。インターナショナルスクールに入学し、勉学に専念するためにモデル業を中断。愛知県立大学に進学するも、モデル・女優の道を目指すために中退。日本語、ポルトガル語と英語の3言語を使いモデルと役者として活動を行う。
 ファジレは非日系であるため、若いころは同世代の日本人の子供達と壁を感じたと話す。「みんなに受け入れられるために日本人みたいな眉毛や前髪に整えて、できるだけ似るようにしてた」との悩みを打ち明けた。今では自分の外見を受け入れ、それを特長として仕事に活かしている。
 故郷のマナウスには2年か3年に一度の割合で戻っていると話す。さらに今年レバノンに住む親族を初めて訪れた。それをきっかけにアラビア語や文化などを学び始めたと自身のルーツ探りを始めた。

ブラジル人たちが語る
撮影裏エピソード

誠治とマルコスのワンシーン(提供=©2022「ファミリア」製作委員会)

 初めての映画撮影は苦労の連続だったと話す。ファジレは「成島監督は本当に厳しかった。でも3カ月で演技の勉強や正しい日本語を学ぶのはとても大変だったけどやりがいがあった」と語る。
 恋人の呼び方は当初名前が使われていたが、成島監督にブラジル人は恋人同士の愛称「Amor(愛)」で呼ぶと提案すると、台本がそのように変更された。
 二人には初めての経験だったため「何もかもが難しかった」と口を揃える。ルカスは「練習した後でも、いざ大物俳優を前にするとセリフを忘れちゃったりして最初はかなり緊張しました」と苦労を語る。
 だがその緊張をほぐすように、役所広司が何度も遠くから手を上げて「マルコス!」と大きな声で呼んでくれたと話す。大御所の方が気を使って積極的に距離感を縮めようとしてくれていた現場だった。そのおかげで「徐々に心が落ち着いていった」と述べた。
 ファジレはブラジル人団地でのバーベキューの収録にかなり苦労し、何時間も費やしてしまったと話す。だが役所広司から「大丈夫だよ」と何度も優しくフォローされ、無事収録を終えることができたと話す。
 役所広司はファジレにブラジルで映画の撮影をしたことがあると話し、「ポルトガル語でいくつか言葉を喋ってくれたり、ジョークを挟んでくれたりしてくれて、初出演の緊張を数えきれないほどほぐしてくれた」と温かさを回想した。
 そのバーベキューのシーンではブラジル人が将来の夢を語る場面がある。収録後、吉沢亮から実際に本人らの夢を聞かれたという。吉沢亮について「普段は恥ずかしがりやで収録前は一人でいることが多いから、話す機会はなかったけど、すごく優しいんだなって感じた」と2人は話す。

若きブラジル人ら
将来の抱負を語る

 この出演で「自分の将来像が変わった」と互いに話す。ルカスは今までは格闘家になることしか考えていなかった。でも「カメラが回るとルカスではなく、名前も過去も友達も、自分とはまったく違うマルコスになれた。この感覚にすっかり魅了されて今後も役者として活躍することが自分の夢になった」と話す。だが「K1で優勝してチャンピオンになることは諦めていない」とも。
 ファジレは「これを機会に日本で演じていく可能性を考えた。でもあまり期待値を上げたくない」と残念そうに話す。「日本のドラマや映画界で外国人役者の活躍は珍しく、これからも受け入れるようになるか分からない」と語る。
 「日本で役者になることが叶うなら嬉しい」と話すが、今年行われたアマゾナス州でのモデル撮影を機に、幼いころからブラジルのドラマを日本で見ていたことを思い出し、「これを機にブラジルで役者としての道が開けばいいな」と新しい夢に目を輝かせた。
 ルカスは「この映画を通して、外国人は日本人とは違う文化を持っていても、同じ人間であることを分かってほしい」との思いを述べ、「外国人側も日本にすんでる以上、日本の文化や習慣などを尊重しルールなどをもっと守らないといけない」と、共に生活する心構えを語った。

最新記事