4世犯罪者132人を出自国に強制送還
人はなぜ罪を犯すのでしょうか。この数年の犯罪を様々な要素から分析した先生がおられまして、その方の結論はほぼ二つに集約されます。一つはお金を使い果たした時、もう一つは人との関係性がほぼ絶たれ、相談相手もいない時だといいます。
私の拙い経験でも腑に落ちる話で、私が孤立感、絶望感を感じたのもまさにそんな時でした。毎日の新聞報道でも、殺人、窃盗、強盗事件の記事がない日はありません。犯人が「相手は誰でも良かった」と供述する事例は枚挙にいとまがないほどです。
さて、日系人のみなさんは、3世まで来日許可が出て、4世のみなさんは基本的に18歳以下でないと来日不可であることはご承知でしょうが、親御さんはそれが不憫で12~15歳ほどで来日させようとします。
しかし、その年頃は中学校や高等学校に行く年齢でもあり、日本語環境に馴染めず、いじめに遭ったり友だちもできず、学校が嫌になり不登校になる確率が急速に上がるといいます。
冒頭の話に戻りますが、お金もない、友だちもいない、教育が義務化されていない、年端も行かない思慮分別の出来ていない子が悪い道に行くことは避けようもありません。
先日、出入国在留管理局は4世の犯罪者132人を出自国に強制送還すると発表しました。日系外国人として来日、日本で辛酸をなめ、今また強制送還され、教育も受けていない母国で外国人として過ごさざるを得ない。
法理は正論であっても人の道として良いものか、多くの日本に住む4世日系人への見せしめにはなるでしょうが、その子の未来を考えると涙を禁じ得ません。
人格形成における幼児教育の重要性
話は変わりますが、先月絵本作家・児童文学者の松居友さん(69歳)とお目にかかりました。彼はフィリピンのミンダナオ島で「ミンダナオ子ども図書館」を主宰しておられます。ダバオから車で約3時間南に行くと、Kidapawan(キダパワン)にたどり着きます。
この町は標高約1千メートル、夏でも冬でも温度差があまりなく、湿度も日本ほど高くなくて実に住みやすい気候です。日本の軽井沢は、夏は高原の爽やかな風が吹きますが、冬は凍てつく寒さ。しかし、キダパワン市は春夏秋冬軽井沢の夏を思わせる気候が続きます。
だからのどかな緊張感のない子どもたちが育つのでしょう。ここから奥は有名なイスラム教徒の分離独立運動の拠点「モロ民族解放戦線」になっていきますが、キダパワンに入るまでにも検問が2回あり、私たちはパスポートとカバンの中身を調べられました。嫌でも気持ちが張りつめていきます。
彼ら先住民のイスラム教徒は、土地も含め「全て共有」が原則、全てにおいて個人の利益より共同体の利益が優先されます。そこに資本主義社会の私有、競争原理が持ち込まれたのでは揉めるのは当然、今も火種は燻り続けています。
そこで活動する松居氏が素晴らしいのは、フィリピン国軍とモロ民族解放戦線との「どんぱち」の真っただ中、戦災孤児の受入れ施設を建設、子どもの受入れと教育を始めたことでした。
協働の人生観、未来を考える重要性、人類愛は幼児教育に根付くものだと彼は考え、20年、30年先を見据えた施設の建設、人材育成に取り組んだのでした。絵本作家としての彼の幼児教育理念・哲学はこの少ない紙面では書ききれません。
ですが、おおざっぱにいえば、4~5歳までに倫理観、勤労の喜び、社会への感謝、連帯など、敵・味方の区別なく共通の人生観を身につけさせたいというものでした。
ほとんどの争いは人生観の違いから起こるようです。ウクライナとロシアとの戦い、コソボ紛争、ミャンマーの内戦など…。韓国と日本も歪みのある教育を受けると紛争の種は尽きず、無限の連鎖を引き起こすことになっています。
幼いころに形成される価値観、人生観として宗教がありますが、ロシアとウクライナの戦いもロシア正教とローマカトリック教徒の戦いに見えるのもあながち的外れではないのでしょう。
タクシー会社を経営する友人が、「林さん、運転手はね、年を取ると最初に覚えた場所に戻りたがるのだよ」と言っていたように、最初に身につけた価値観、人生観から終生離れることはないのですね。
新たな連帯を求めて
NHK放送文化研究所が行った「日本人の意識調査」があります。そこでは日本人の意識を4つのカテゴリーに分けて分析しています。
【快志向】自分の好きなことをして自由に楽しく過ごす 36%
【愛志向】身近な人たちと仲良く和やかな毎日を送る 40%
【利志向】しっかり計画を立て貯蓄、資産をふやすこと 12%
【正志向】みんなで力を合わせ、世の中を正しい方向に変える 3%
【その他】9%
最初に身につけた人生観を基軸に、後天的に学んだ人生観で生きている人間、そして80%余りの人が無理せず身近な幸せを求め生きている。こんな日本人像が浮かび上がってきます。
争いのない平和な社会づくりは、コロナ禍とロシア・ウクライナ戦争を契機により一層身近に感じられるようになってまいりました。私たちのメディアも日系人社会に根差して生きて事足れりではなく、新たな若い人たちの掘り起こし、そして駐在・赴任されたみなさま等、新たな連帯の模索が求められています。
今年一年のみなさまのご健康・ご多幸をお祈り申し上げ、年頭のごあいさつと致します。