8日午後、数千人規模のボルソナロ前大統領支持者らが軍警によるバリケードを破って連邦議事堂、最高裁、プラナルト宮(大統領府)に突入し、破壊行為を行った。その結果、約300人が逮捕された。2021年1月6日の米国でのトランプ前大統領支持派による議事堂襲撃事件を思わせるものとして、国際的問題となった。8、9日付現地紙、サイトが報じている。
侵入・破壊行為の中心となったのはブラジリアの陸軍本部の前でキャンプを張っていた抗議運動者で、数日前からこの日の三権広場での抗議を予告していた。それに対し、フラヴィオ・ジノ法相は6日、国家治安部隊導入を認可。連邦直轄区政府と連携して軍警、必要な場合は軍を導入しての警備を行うと宣言していた。
だが午後3時頃、前大統領派は軍警によるバリケードを難なく破り、連邦議事堂、最高裁、プラナウト宮に侵入。「軍事介入求む」などの横断幕を張り、窓ガラスを叩き割り、三権を象徴するそれぞれの建物の内部を破壊した。軍警もゴム弾や催涙ガス弾、からしガスのスプレーなどで対応したため、現場は混沌となった。
この間、警備責任があるはずの連邦直轄区軍警が任務を怠り、侵入の模様を遠くから撮影したり、エスプラナーダ(省庁間広場)近くのココナッツ水売り場にたむろしたりする姿が見られ、物議を醸した。
この侵入、襲撃行為は現地メディアもすぐに問題視し、テロ行為として一斉に報道。各メディアは抗議者を意味する「マニフェスタンテ」という呼称ではなく、「ゴルピスタ(クーデターを試みる人、フォーリャ紙)」「ラジカリスタ(過激派・エスタード紙)」「テロリスタ(グローボ紙)」などの言葉を使用した。この行為は2021年1月6日の米国議事堂襲撃事件を意識したものと解釈されたが、米国の場合と違い、大統領の就任阻止を狙ったものではなく、勤務する人のいない日曜日とはいえ、民主主義の根幹でもある三権の中枢を一斉に襲撃したという意味ではより深刻だ。
午後6時近くには、ルーラ大統領が連邦直轄区政府に対し、治安面での連邦介入を発表。これによって軍が動員され、逮捕が進んだことで事態が収拾に向かった。8日の逮捕者はジノ法相によると約200人、市警によると約300人、連邦直轄区のイバネイス・ロシャ知事によると約400人で、参加者を連れてきたバス約40台が差し押さえられた。
逮捕されなかったボルソナロ派らは陸軍本部前に戻り、キャンプを張ったが、ジノ法相やムシオ・モンテイロ国防相、イバネイス知事との話し合い後、最高裁も24時間以内の解散を命じたため、全国各地の軍施設前のテントは9日に撤去され、従わない場合は逮捕されると発表された。
だが、軍施設前でのキャンプを「友好的なデモ」と呼んで対処を急がなかったムシオ国防相や対策の甘かったイバネイス知事に対しては厳しい批判が飛んだ。ルーラ大統領も怒り心頭で、同知事の謝罪を拒絶した。数時間後、最高裁はイバネイス知事に90日間の停職命令を出した。
今回の襲撃事件に関する批判の声は国内の政治家だけにとどまらず、米国のバイデン大統領やフランスのマクロン大統領、南米各国の首脳を皮切りに、各国から続々とあがっている。米国の議員たちは、現在フロリダ州で休暇中のボルソナロ前大統領の国外追放を求める声も上げている。
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8日に起きたボルソナロ派による連邦議事堂や最高裁、大統領府への襲撃事件は国内外で強い波紋を呼び、向こう数日間はこの話題が続きそう。連邦直轄区(DF)ではイバネイス・ロシャ知事が停職処分を受けたが、同知事はその数時間前にDFの保安局長だったアンデルソン・トレス氏を解任している。トレス氏は昨年12月までボルソナロ政権で法相を務めており、在任中には、大統領選の決選投票日に禁止されていた交通取締を強行して物議を醸したシルヴィネイ・ヴァスケス元連邦道路警察長官と事前に会議を行い、疑惑も持たれていた。ジノ法相らは同氏の保安局長就任の無効化も図ろうとしていたが、その背景は?