サンパウロ市在住の文筆家毛利律子さんが一昨年に上梓した『ソロー流究極のシンプルライフ』(文芸社)の販売をサンパウロ市の日系書店が開始した。
毛利さんは大学院で英米文学科を修了、アメリカ学日米文化比較論、環境人文学を研究してきた。夫のブラジル赴任に伴い、2011年に当地へ移住。ライフワークとして文筆活動を行い、古今東西の文学作品から現代に通じる知恵を紹介する文芸寄稿などを長年にわたって邦字紙へ行ってきた。
『ソロー流究極のシンプルライフ』は、1996年に毛利さんが自費出版した『ソローとはこんな人』をもとに制作された。同書は、日本を代表する歴史小説家、故司馬遼太郎さんから「ソローの小伝を、たとえ自費出版でもお出しになると、われわれにはありがたいのですが。できれば、小学生にでも読めるような本であれば、最高です。『ソローとは、こんな人』という題で」との勧めを受けて、3年掛かりで書き上げた。
コロナ禍によって人々の暮らし方が大きく変化したことを受け、「人間の理想的生き方」を再考する一書として、再編集し、出版した。
ヘンリー・デイヴィッド・ソローは、19世紀のアメリカ自然主義者。急速に伸長する資本主義社会へ異を唱え、代表論文『市民の抵抗』では、国家政策が個人の良心に反する場合は非暴力不服従に徹するべきと主張した。ソローの思想はロシアの文豪トルストイやインド独立運動の指導者マハトマ・ガンジー、米国の黒人人権活動家マーチン・ルーサー・キング牧師らに強い影響を与え、近代の市民活動の礎を形作った。
ソローは、実業家として家業の鉛筆製造業で成功を収める一方、「人生に必要な物は『衣食住』プラス健康であり、それ以上のことは贅沢である」と「シンプルライフ」の実践を勧めた。
『ソロー流究極のシンプルライフ』では、ソロー初心者に向けて、彼の生涯や米国ボストン・コンコードのウォールデン湖畔での2年2カ月に及ぶ自給自足生活を描いた著作『ウォールデン―森の生活』の内容を解説。ソローの「シンプルライフ」思想を端的に表した次のような文章が紹介されている。
「急がないという決意以上に人生にとって有益なものはない」「結局、二年数カ月の経験から私が学んだことは(中略)動物と同じくらいのシンプルな食事をしても健康と体力が減退することはなく、むしろ健康維持ができるということ」「もし人が、当時の私の様なシンプルな生活を送れば、コソ泥や強盗などしないと信じている。そのようなことは一部の人が必要以上に物を持ち、一方、一部の人には必要な物がない、というような社会にだけ起きることなのだ」
同書の中で毛利さんは、「ソローは、人には誰にでも、その人の時季にあった開花の仕方があり、そのときが来るまで『待つ』ことの大切さ、そして、その間に原則に従った生活をすることが大切であることを、彼の全生涯を通して示している」と、ソローの生涯を知ることの意味について述べている。
『ソロー流究極のシンプルライフ』はサンパウロ市リベルダーデ区の日系書店フォノマギ(電話11・3104・3329)や太陽堂(電話11・3208・6588)で購入できる。