2023年も1カ月が過ぎたが、ブラジルでは早くも年間ベスト10級のニュースが相次いでいる。世界を震撼させた1月8日の三権中枢施設襲撃事件がブラジル国民に与えたショックは大きく、ヤノマミ族の飢餓と大量餓死問題も、骨と皮だけにやせ細った少年少女の壮絶な映像とともに忘れることができない。この2つほどではないものの、ここ10数年のブラジルサッカーの中心選手であり続けたダニ・アウヴェスのスペインでの強姦容疑報道はあまりに悲しいものだった。
ネイマールのような攻撃面で活躍する選手ではないので目立ちにくくはあったが、ダニのサッカー人生は華々しい記録づくめのものだった。所属したチームが優勝すること実に43回。これは世界のサッカー選手の中でも歴代史上最多の数だ。さらにブラジル代表としての通算出場試合数126試合は歴代3位の記録。昨年も39歳にして、自身3度目のW杯に出場するなど、衰え知らずの健在ぶりを見せていたばかりだった。
そんな彼の人生が、ほんの一瞬、魔が差しただけで一気に天国から地獄へ変わってしまうのだから、世の中、何があるか本当にわからない。被害者の女性をトイレの中で強姦したとされる時間は16分。彼がサッカー人生でピッチに立った時間の長さと比べても、その時間は本当に微々たる長さでしかない。
だが、どんなに短い時間でも、彼にかかっている容疑は、人生そのものを破壊するには十分な内容だ。一生を捧げてきたサッカーの功績さえ台無しにする可能性があることが頭の中をよぎらなかったのだろうか。
まだ裁判で有罪と決まったわけではないから、このような書き方をすべきではないのかもしれない。だが、この事件の報道でここまであがってきている事実から判断するに、冤罪を主張するのは極めて難しい。コラム子とて信じたくない話だ。
皮肉なことに、ほんの数年前まで、彼はサッカー界でも有数に尊敬される選手だった。2019年のコパ・アメリカでは36歳にして大会最優秀選手。その直後に長い欧州サッカー生活から一転してサンパウロFCでブラジルサッカー界に復帰。2021年には補強選手として東京五輪での金メダル獲得にも貢献。この時点ではネガティヴな要素は感じられなかった。
それがサンパウロFCを退団したあたりから彼を取り巻く環境の雲行きが怪しくなった。栄誉だったはずのW杯代表招集は「若手のチャンスを潰した」と批判され、ボルソナロ前大統領を支持する言動も批判の的となった。そして今回の事件。「一寸先は闇」とはまさにこのことだとしか言いようがない。(陽)