グローバル社会が確実に進む中、日本人が海外で働く時代が到来すると考え、「海外で起業している日本人(および日系人)経営者の研究」が日本で進められている。
現在、日本学術振興会から研究資金を得てラテンアメリカ在住の日本人経営者を調査しているのが、横山和子東洋学園大学・元教授(大学院研究科長)である。横山氏は今月4日にサンパウロ入りし、19日までサンパウロ市を中心に近郊地域に暮らす18人の日本人移住者と日系人の起業家に聴き取り調査を行う。今回は同大学のセーラ・ルイーザ・バーチュリ現代経営学部教授も12日まで同行する。
海外で起業してきた日本人の足跡が、学術的に英語で発表されてきたものはこれまでほとんどなかった。両教授は、既に東南アジアで同様の調査研究を行い、その結果、2019年に『Transnational Entrepreneurship in South East Asia:Japanese Self-Initiated Expatriate Entrepreneurs』をドイツのSpringer社より出版した。現在進めているのはこのラテンアメリカ版だ。20日から3月3日まではメキシコの日本人にも調査を進める。
調査対象は、自分の意思で海外移住した起業家と移住者の両親の下で生まれた起業家。今回は、前者が13人、後者が5人。これまで、日本在住の日系ブラジル人の調査も行い、沖縄県、静岡県浜松市、群馬県大泉町を訪問した。
来伯は初めてで、調査する人探しに悩んでいた時、梅田邦夫元駐ブラジル特命全権大使と知り合い、そこからネットワークが広がった。
「全くコネがなかったところから紹介していただいた人々に連絡し、皆さんが優しく応対してくれたことが嬉しいです」
と話す。
横山教授は北海道小樽市出身。北海道大学経済学部経営学科卒業後、当時は女性が男女対等に働ける職場がほとんどなく、米国に渡り、インディアナ州立大学大学院経営管理学修士(MBA)を取得。その後、ジュネーブやローマの国連機関で9年間国際公務員として勤務した。帰国後、東洋学園大学で30年間、人的資源管理やグローバル人材育成を担当し、現在は同大学と名古屋大学大学院国際開発研究科、ハリウッド大学院大学ビューティービジネス研究科で非常勤講師を務める。昨年には国際的なキャリアアップ支援事業を行うInternational Career Development株式会社を立ち上げた。
「ブラジル人との初めての出会いは、ジュネーブの国連難民高等弁務官事務所に勤務時の上司。奥さんはミワさんという日系人で、思い出深い上司の国に来られたのも感慨深いです」
と頬を緩める。
イギリス生まれのバーチュリ教授は、日本で暮らして20年。最初は群馬県に暮らし、多くの日系ブラジル人と交流があった。
「私はイギリス出身の白人ということで、地元の人々に特別視されて持ち上げられる一方、出稼ぎに来ている日系人が一段下に見られていた雰囲気に違和感を覚えました」
と振り返る。
今回の調査が、今後日本人が海外で働く時の一つのヒントとなり、両教授が直面してきたように、異文化の中で働く女性の困難も包括的に捉え、問題解決の糸口を見出せることが期待されている。