日本の農林水産省とJETROは3日、日伯両国における食品及び農業分野のビジネス協力関係拡大を目的とした「日伯食品・農業合同セミナー」をサンパウロ市のブラジル日本文化福祉協会ビルで開催した。両国の産学官有識者がパネルディスカッションを行い、ディスカッションテーマ「世界の食料安全保障や持続可能な生産システム等に向けた両国の協力」ではロベルト・ロドリゲス元農務大臣が「農業なくして命なし。日伯が協力すれば世界平和のチャンピオンになれる」と熱弁した。会場には、日伯間で事業を行う企業関係者ら約100人が来場。同時通訳付きのオンライン配信も実施された。
セミナー冒頭では来賓参加した林禎二駐ブラジル日本国大使が挨拶に立ち、「日本市場では、新型コロナや欧州の記録的干ばつ、ロシアのウクライナ侵攻により、多くの輸入食品、飼料価格が上昇した。世界の食料安全保障に対する関心が高まる中、日本政府としては、世界への食料供給において、最重要国の一つとしてブラジルに注目している」と述べた。
吉岡孝農林水産省輸出・国際局参事官は、「中南米は人口6億人、中でもブラジルは2億人の巨大市場であり、新興国として一層の経済成長が期待されている。また、100年以上の日系移民の歴史があり、日本の農業とその精神が根付いた土台もあり、日本にとってもビジネス拡大の大きなフロンティア」と語った。農水省は2015年から日伯農業大臣間での政策対話を続けており、今回の様なセミナーを通じて農業協力関係の拡大やビジネス環境の改善などを実現していく意向だ。
テーマ別セッションでは、東洋食品スーパー丸海、食品貿易のZENDAI社が「ブラジルにおける食産業の事業展開の可能性」を、ブラジル和食協会が「ブラジルにおける日本産食品の展望」を、ブラジルみずほ銀行が「ブラジル進出に当たってのファイナンス制度」を、キッコーマン・ド・ブラジルが「ブラジル進出の体験談」を、野村総研研究所が「ブラジルでの日本食産食品の市場調査報告」について行った。
全てのセッションで「ブラジルコストをいかに下げるか」が課題として挙げられた。ブラジルは他の中南米諸国と比べて規制や税制、書類手続きが煩雑かつ高額となっている。各セッションでは、規制に当たらない最適な資金調達方法や、競合他社との協調領域を見出すことでコスト削減を目指す方法など、ビジネスチャンスを活かすための現場の声が紹介された。
パネルディスカッション「世界の食料安全保障や持続可能な生産システム等に向けた両国の協力」にはパネリストとして、ロドリゲス元農務大臣をはじめ、ルイス・ダニエル・デ・カンポス国際金融公社中南米農業ビジネス開発リーダー主席投資オフィサー、デロイト社のルイス・オタビオ・フォンセッカ・アグリビジネス貿易消費者パートナー、江口雅之国際協力機構(JICA)所長、吉岡参事官が参加した。
パネルディスカッションでは、広大な耕作可能面積をもつブラジルは世界の食糧安全保障の主要プレーヤーとなる潜在力があり、そこに日本の資金力や技術力が合わされば、両国のみならず、アフリカ諸国との協力関係構築もできると語られた。
ルーラ大統領は、中南米の連携強化とアフリカ諸国との協力関係強化を外交政策の重点としており、日本がセラード開発で培った技術やパラー州など熱帯地域で日系人が開発してきたアグロフォレストリーのような持続可能な農業はアフリカで転用が可能だ。一方で日本への輸出を増大させるためには、ブラジルのトレーサビリティ(商品が生産されてから消費されるまでの過程記録)に対する意識を向上させる必要があるとした。
セミナー閉会にあたって、原宏JETRO所長と小寺勇輝ブラジル日本商工会議所会頭が挨拶し、官民一体となって食と農業を通じた日伯経済関係のさらなる緊密化、強化を目指すと述べた。
セミナー後にはランチレセプションが催され、日本の食品企業による試食等が実施された。