5日、米国で世界で最も権威ある音楽賞の1つ「グラミー賞」の発表が行われた。ブラジルのアニッタに新人賞受賞の期待がかかったが惜しくも届かなかった。彼女は昨年、世界的に大ヒットした「エンヴォルヴェール」を出し、受賞の最右翼と見られていた。事前の予想ではイタリアのロックバンドのマネスキン、女性ラップ歌手のラトー、イギリスの女性ロックバンドのウェット・レッグらが受賞候補とされていたが、新人賞を受賞したのは一般的には全くの無名だった女性ジャズ歌手のサマラ・ジョイだった。
サマラの受賞は衝撃的だったが、それ以上に驚いたのは、ブラジルアニッタファンの行動だった。彼らはサマラのインスタグラムや、彼女の受賞を伝えるグラミーの公式ツイッター・アカウントに「あんた誰?」「アニッタに賞を返せ」などとの苦情を大量にポルトガル語で書き込んだ。
これらは非常識な恥ずべき行為だが、同賞の発表が例年になく遅れ、ブラジリア時間の午前1時30分頃まで待たされた挙句、受賞したのが候補10組の中で最も知名度の低いサマラだったとなれば、溜まったイライラが思わず噴出してしまったのだろうとアニッタファンの気持ちも多少は理解できる。
加えてサマラの受賞にはたしかに疑問の残る部分がある。アニッタの「エンヴォルヴェール」は音楽配信サービス「スポティファイ」で4億8千回再生されるほどの大ヒットだった。1億回再生を超える楽曲を持つ他候補も3組いた。それに対し、サマラは最も人気の曲でさえ300万回再生しかなかった。アニッタのシングル曲なら数日もあれば達成できるような数字でしかない。
サマラの新人賞受賞は、選考投票に関わる米国音楽関係者の一部が猛烈な後押しをしたものと思われている。選考投票を行う同賞の会員は高齢者が多いことで知られており、巷のヒット曲に疎い側面があるともささやかれている。
サマラの歌声は50年代のジャズ黄金期を彷彿とさせる素晴らしいものだ。だが、新人賞は「歌唱コンテスト」ではない。あくまで「新人として、世間にどれだけアピールしたか」こそが問われるべきだ。そう考えると、サマラの活躍には物足りなさが残る。
さて、そんなサマラが5月に音楽フェスティバルでブラジルにやってくる。彼女は今回の騒動でアニッタに興味を持ち、SNSのアカウントをフォローしたという。新人賞を巡るひと悶着が「雨降って、地固まる」結果に繋がってほしいところだ。(陽)