ブラジル13年目になるコラム子(24歳、3世、男)にもついにカーニバル出場の機会が巡ってきた。参加させてもらうエスコーラは「バロッカ・ゾナ・スル」。日系旅行会社「トレンディ・ツーリズモ」の企画した体験ツアー取材の一環だ。本番出場日は17日。当日に向け、9日に最後の予行演習が行われた。
会場にいざ足を運ぶと、そこにはあらゆる人がいた。車椅子に乗った身体不自由の人や、年齢や体形など気にせず好きな格好に身を包み堂々とした佇まいの人たちなど。22時過ぎと夜遅いにも関わらず彼らの表情には生気が溢れ、魔法にでもかかっているような感じがした。露出のきわどい人もいた。
パレードでは団体の列を乱さず行進し、歌いながら踊って尚且つ笑顔を保たなければならない。気を配るものが多すぎてとてもではないが笑顔を保つ余裕はなかった。だが、慣れていくにつれ、焦っているような顔つきから徐々に口元の緊張感が解れていった。
行進は会場外から始まる。やっと会場に到着すると、眩しい照明に照らされる。予行演習にも関わらず観客席には何百人もの人がいた。ドクンドクンと鼓動が高鳴った。
観客から受ける眼差しは、今思うときっと直接自分には向けられていなかったのだろうが、まさに自分を応援し、肯定してくれているような感じがして、次第に自信が満ち溢れてきた。コラム子はパレードの一部であり、パレードもまた自分自身であるかのような感覚を覚えた。わずか1時間足らずでのことだ。
普段は恥ずかしがり屋のコラム子だが、気恥ずかしさよりも楽しさが勝っている。気づけば身体は軽く、満面の笑顔だ。強い一体感に我を忘れ、観客席の人達へ「伝われ、この楽しさ」と叫びださんばかりに行進していた。
本番当日は観客席がいっぱいになる。今日とは比べられない興奮があるに違いない。本番が楽しみで仕方がなくなっていることに気付き「こうして皆サンバの魔法にかかっていくのだな」と納得した。
カーニバルはこれまでテレビで観る程度で、サンバの何があれほど人を惹きつけるのか理解できなかったが、今では胸を躍らせながら、本番当日を待ち遠しく思っている。「伝われ、この楽しさ」。(ア)