「これまでとは見える景色が全く違った」――。日本のプロレス団体「新日本プロレス」でダンサーを務めるPIETERさんが、17~18日に開催されたサンパウロ市カーニバルで、強豪サンバチーム「エンペリオ・デ・カザ・ヴェルデ」の「デスタッキ」として出場を果たした。デスタッキはパレードにおけるメインポジションの一つ。エンペリオは優勝候補と目され、今回のカーニバルでは1位の「モシダーデ・アレグレ」と0・1点差で3位となった。
PIETERさんがサンバを習い始めたのは2017年。きっかけは女性ダンサーがリングにあがって活躍することを快く思わないプロレスファンからの誹謗中傷に悩み、プロレスリング以外の場にも居場所を求めたところにあるという。
エネルギーに満ち溢れたサンバに魅力を覚え、熱中した。18年には早速、サンパウロ市のカーニバルに出場。同年から20年にかけては、山車上の側面で踊るダンサーとして参加。コロナ禍の21、22年は参加が叶わず、3年ぶりの参加となった今回、山車の前面センターポジションで踊るデスタッキとしての出場になった。
「前には何もなくて、自分が山車を率いているというと少し大袈裟のような気はするけど、これまでとは見える景色が全く違った。観客の目に最初に映るのが私だと思うとすごく責任のあるポジションだと感じた」と目を輝かせながら本番で感じた胸の高鳴りを話した。
デスタッキ出場の裏側にあった困難
デスタッキでの華々しい出場が決まるまで、半年以上に亘る話し合いがあった。サンバチームは現地コミュニティをなにより大事にし、外部の人間を贔屓することを快く思わない。PIETERさんは、チームのカルナヴァレスコ(総合演出)と何度も面談を行い、信頼を勝ち取ったという。
さらに、デスタッキで使用する豪勢な衣装の費用は個人で調達しなければならず、PIETERさんは昨年12月21日にクラウドファンディング(寄付公募)を立ち上げ資金を工面した。ブラジル出発直前の1月31日には総額328万円が集まった。「みんなの協力のおかげで本当に素敵な衣装ができました。コロナ禍で人と集まる機会が無くなって活動的ではなくなってしまった人たちに、私のカーニバルでの姿が元気づけのきっかけになってくれれば」と感謝の気持ちを表した。
PIETERさんはサンバを始めるきっかけとなった自身への誹謗中傷に対し「今ではそういう時期があってよかったと思う。あの時にいろんな嫌味を言ってくれたのがパワーに変わって、今デスタッキとして参加できたから、感謝」と力強く語った。
「プロレスに出始めたころは将来自分がサンバカーニバルに出場してるなんて想像もしていなかった。私の毎日のアップデートを伝え続けて、それをみんなに楽しんで、喜んでもらいたい」と新たな挑戦に向けて楽しそうな表情で話した。
サビアの独り言
PIETERさんは幼いころ、地黒な肌質から「ブラジル人」とからかわれ、いじめに遭っていたのだとか。そんな経験がありながらもブラジルに対しては悪い印象は持っておらず、初めて来伯した際には「地元に帰ってきた気がした」と感じたそうだ。