22年に開催されたブラジル・チェス全国大会で優勝を果たし、24年開催予定のチェスオリンピアード・ブラジル代表選手に選出されたジュリアナ・サユミ・テラオさん(31、3世)に、チェスを始めたきっかけや代表選手としての意気込みを聞いた。
ジュリアナさんは2009年に国際チェス連盟の定めるレーティング(実力値)で伯国ベスト10に入るチェスプレイヤーとして認定され、11年には南米女子20歳以下選手権で9点満点中7・5点を獲得し、若干20歳でチェス界最高称号のグランドマスター位を獲得した。12年にはブラジル全国大会で優勝し、その後も活躍を続け、22年に開催されたブラジル全国大会優勝を含め7度の優勝経験を持つに至った。
ジュリアナさんがチェスを始めたきっかけは、兄への競争心からだったという。「父からチェスを教わった兄が大会で優勝して、天才児としてちやほやされていたの。私は負けず嫌いな性格だから、すぐに父にチェスを教えてもらい始めたの」と振り返る。
その後、兄妹で腕を磨き、大会でも好成績を残していった。娘の熱中ぶりを見た父は「本気でチェスを続けたいのならプロの先生に習うべきだ」と勧め、本格的な勉強を開始した。「プロの先生の授業を受けるために、週に一回、お父さんと兄と隣町まで行っていました。チェスの勉強も楽しかったけど、買い物をしたり、アイスを食べたりした家族との楽しい思い出も強く残っています」と微笑みを浮かべた。
ジュリアナさんは大学では経営学を専攻。成績は平均的だったという。「チェスができるからって勉学ができるとは限らないわ」と笑った。「チェスを辞めて他の事をしようかと考えたこともあったけど、チェスほど熱中できるものが他には無かった」という。兄はプロチェスプレイヤーを目指さず、現在は医者となった。「彼は本物の天才だわ」と冗談っぽく肩をすくめて語った。
ジュリアナさんはこれまでチェス大会に出場するため、20カ国以上訪れた。大会では「女と試合をしたくない、女に負けたことを受け入れられない」といった女性差別を受けたこともあるという。そうした時は家族が心の支えとなってくれた。
ジュリアナさんは自身のプレースタイルの特徴を「辛抱強さ」と表現する。「最後まで諦めないことは立派な強さだと思うの。父からは、諦めない力、明確な目標と努力の大切さなどを教わった。それが私のチェスに活きていると思う」と話した。
「チェスオリンピアードに向けて練習を続けて、ブラジル代表としてしっかり活躍したい」と意気込みを語った。
取材が終わった後、「おばあちゃんは日本語しか読まないの。きっとこの記事が掲載されて読んだら喜ぶわ」としみじみと語った。これまで受けてきた恩に報いたいという家族に対する深い愛情が感じられた。
(仲村渠アンドレ記者)