連載小説=自分史「たんぽぽ」=黒木 慧=第140話

 (二) 子育てとは……年老いた今、昔をふり返れば、子育ては仕事の後になりがちで、一にも二にも仕事が最優先された。美佐子は周囲を囲ったベッドの中に子供を置いて仕事に出て、夕方家に帰ってみれば、子供は泣き疲れて眠っていた、というような状態で、仕事が優先された。子供達の遊ぶ所はバタタ畑の中で、真っ黒に土に汚れて遊んでいた。
 学齢期になったらヴァルゼン・グランデの寄宿舎生活で、一ヶ月、一週間と親元を離れて育って行った。幸いに我が家の四人の子供達は余り大きな病気もせずに育ってくれた事には感謝している。この様に寄宿舎生活で親とある距離を置いて暮すのは、子供の独立心を育み親を慕う気持ちがもっと強くなる。今の子供達は親のそばで甘やかされているけど、出来ればこの子等にも寄宿舎生活を送らせた方が彼等の為になると思っている。
 さて、我が家の四人の子供達は成長してからもまじめで、グループの中でもいつも積極的で、リーダー的素質を持っていたようだ。私達親としては、子供達の将来については余り押しつけがましい事は言わず、子供本人の気持ちを尊重していた。子供自身の力で世の中を渡れるよう指導したつもりである。子育ての初期は無い無いづくしの時代、親は心を鬼にして働かねばならなかった、いつも子供達に対して「ごめんね」と言う気持ちで過ごして来たけど、四人の子供達が立派に育った今、私達の子育ては間違ってはいなかった、これで良かったのだと自己満足するこの頃である。
 (三) 夫婦とは……まず夫婦愛がその絆であらねばならない。そして子供が生れたら、子供にそそがれる愛情が夫婦の絆を強める。子供を中にして意見の違いも出て来て夫婦げんかも始まる。日常のささいな事でけんかになることもある。でも夫婦とは家庭、家族を守るために強く結びつき、支え合わねばならない。私達もその様な日々を過して来た。私達は恋愛から生れた結婚ではないので、最初から愛があった訳ではない。それでも美佐子がブラジルに来る前の手紙のやりとりの中に、まだ見ぬ彼女への愛が芽生えていたのかも知れない。彼女の着伯前の期間「千秋の想い」は一種の愛であったのかも? 恋愛から生れた結婚は理性よりも感情が優先されるので、感情のバランスが崩れて離婚の比率が大きい場合が多い。でも私達の様な見合い結婚は、物事を理性的に見れるので却ってうまく行っている例が多い。

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