連載小説=自分史「たんぽぽ」=黒木 慧=第147話

 その他これから一番恐いのは肺炎である。八十歳以上では肺炎で死ぬ人が多いので、私はワクチンの予防注射をすぐにでもしようと思っている。今のところ薬はコレステロールの十ミリグラムを毎日飲んでいるだけで、あとは医者に言われた時だけ、その薬を飲むだけである。
 美佐子も私以上に健康そうにしているけど、持病の不整脈と足の裏のしびれが慢性化して治らない。そのために薬は四種類程飲んでいるようだ。彼女は今百五十七センチで七十キログラムと肥えているので、食餌療法や運動などやっているけど、中々体重は減らないようだ。骨太の体質なので、これでよいのではと感じている。
 (十) 黒木家の血統と酒……昔から、祭やよろこび事には、酒はつきものである。或いは酒がそのよろこびの雰囲気をつくり出すと言っても過言ではない。
 わが黒木家も酒との絆は強く、先代に遡って、私の記憶の届く所までふり返ってみても、どの世代でも、男達は酒のために命を短くしている。
 私のおじいさん菊次郎が六十九歳、父弥吉が五十七歳、私の兄知足は四十二歳の若さで酒に命をうばわれている。又、私のおぢつまり美佐子の父伝松も酒に人生を狂わされて六十八歳で亡くなっている。弟の巳知治も今、七十二歳で、KTY社の社長を退職したとたんに、酒ひとすじの人生に変わって「酒さえあれば、いつ死んでも構わない」などと絶望的な言葉を口にするこの頃である。人生の苦難を酒に逃げ込んで、そのあげく、酒のどれいになっているのだ。そうなれば酒の世界から抜け出すのは容易ではない。
 巳知治の家族も、兄貴の私も、なんとか更生させよう、酒をやめさせようとあれこれその方策を講じてみるが本人の意志が協力して呉れないので、今では万策尽きた状態である。
 酒が悪いのではなく、酒との付き合い方を間違っている本人が悪いのだ。黒木家の血統は酒に対する抵抗力が弱い。飲み始めたらブレーキがきかない。酒をコントロール出来ない。
 だから、今から生きて行く子や孫や、その後の皆に伝えたい。出来れば若いうちから、酒とタバコにはなじまないようにすること。酒の席でも自分の心を強くもって、酒をすすめられても、付き合い程度でブレーキ出来るくらいでやめてほしい。

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