連載小説=自分史「たんぽぽ」=黒木 慧=第149話

 この様に災難の多い日本と違って、ブラジルは非常に恵まれた国である。広い国土のブラジルの気候はさまざまだけど、その中にあって、私達の住むサンパウロを中心とした地域は地震もなく、津波もなく、火災も殆んどなく、台風もなく、人命をおびやかす様な天災も殆んどない。雨も適当に降るので、カフェもカンナも大豆も綿もミーリョ(トーモロコシ)も小麦も何でも良く出来る。私が日本で経験した食糧不足など、ここブラジルでは絶対に起らない。世界で一番の食糧の輸出国になれる国だ。ブラジルは農業面だけでなく、鉄や石油やその他色々な鉱物資源も沢山あり、日本人の頭脳を借りて、より豊かな社会が作れる筈だ。日本では原子力発電所の放射能拡散で大きな被害を受けているけど、ブラジルでは原子力発電は要らない。大きな川のダム発電で自然に優しい電気エネルギーが充分にある。
 ブラジルは人種差別のない良い国だ。世界中のあらゆる人種がポルトガル語で仲良く暮している。北米アメリカにもまだ人種差別が少し残っているし、中東、アラブ諸国は宗教戦争が絶えず、支那でも東南アジアでも宗教戦争がまだ残っている。中南米では政治テロで紛争が絶えない。この様に世界を見てくると、ブラジルは世界で一番平和な国と言えよう。ではそこに住むブラジル人は平和に暮しているだろうか? それは、若しブラジルに泥棒とか強盗が居なければ、確かに国民は平和に暮せる筈だ。こんなに恵まれた国で、ただひとつ悪い事はこの治安の悪さだ。これは天災ではなく人災なのだ。これは人の力で解決出来る問題なのだ。政治力が足りないのだ。もっと人格造りの教育に力を入れるべきだ。そして平和を愛する国民を育てるべきだ。泥棒よけに犬を飼う、その犬の飼料代を教育に廻したら充分に可能な筈だ。
 さてもうひとつ人間改造について。日本人が何故優秀なのか? それは、毎年毎年度重なる災難にあって、どのようにしたらこの様な災難から身を守る事が出来るか、いつも災難と戦って生きて来たからなのだ。そしていつ地震が起きて津波が押し寄せて来るのか、いつも危機感を持って生活している。
 その点ブラジルに住む人は何の心配もない。そんな事を考える必要はない。頭も体も使わないとだめになる。特に私の様な老人は頭を使わないと「ボケ」てしまうし、体を使わないとカーマ(ベッド)に横になって死んでしまう。元気で長生きしたければ、頭で考え、運動することだ。

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