《特別寄稿》政治腐敗は政権の左右を問わず=中南米で汚職を減らすには=桜井悌司(ラテンアメリカ協会常務理事)

 本年1月31日に、TI社(トランスパレンシーインターナショナル)が恒例の「2022年世界腐敗認識指数」を発表した。本年の特徴として、ロイター電では、グアテマラ、ニカラグア、キューバの3カ国が過去最低の順位に転落したこと、その背景として、公共機関による組織犯罪、政治・経済エリートによる人選、人権侵害の増加を挙げている。
 またさらに同電では、TIのデリラ・フェレイラ・ルビオ会長の発言として、「弱い政府は犯罪網や社会的葛藤、暴力を食い止めることができず、一部では治安対策に名を借りた権力集中により脅威が増大する事態が見られる」を紹介している。
 この指数やTI社の紹介についての詳細は、過去のレポートを参照していただくとして、世界の国・地域180を対象に、財界幹部らによる腐敗レベルの認識度を0(「極めて腐敗している」)から100(「極めて清潔」)で数値化し、ランキングしたものである。米州の平均は43点。中南米では犯罪組織が公共機関に食い込んでいるベネズエラとニカラグアのクリーン度が最も低かった。

1)2022年度調査について

 世界の腐敗認識度調査では、常に北欧諸国が上位だ。22年度調査でもデンマーク(1位)、フィンランド(2位)、ノルウェー(4位)、スエーデン(5位)を占める。10位内に入っている国々にはニュージーランド(3位)、シンガポール(5位)、スイス(7位)、オランダ(8位)、ドイツ(9位)、アイルランド(10位)、ルクセンブルグ(10位)となっており、毎年の順位の変化は少ない。
 参考までにアジア諸国のランキングも紹介すると、シンガポールに次いで、香港(12位)、日本(18位)、台湾(25位)、韓国(31位)、中国(65位)となっている。
 ラテンアメリカ諸国では、ウルグアイ(14位)、チリ(27位)、バルバドス(29位)、バハマ(30位)、セント・ヴィンセント・グレナディーン(35位)、ドミニカ国(45位)、セント・ルシア(45位)、コスタリカ(48位)、グレナダ(51位)、キューバ(55位)の順となっている。ベスト10の内、カリブ海諸国が6カ国入っていることが特徴である。
 ワースト5をあげると、ベネズエラ(177位)、ハイチ(171位)、ニカラグア(167位)、ホンジュラス(157位)、グアテマラ(150位)である。

2)過去5カ年の推移をみると(2018年~2022年)

 次に新型コロナウイルス感染以前の2018年、2019年とコロナ感染後の2020年~2022年の5カ年でどのように変化したかを見てみよう。一部カリブ海諸国については、2019年と2022年の比較になる。ランクが上昇した国々と下落した国々を紹介する。( )内は上下したポイントである。
 表2でみると、収録されているラテンアメリカ・カリブ海諸国30カ国の中で、ランクが上昇した国数は12カ国、下落した国数は14カ国、変化なしの国数は4カ国となっている。表4と表5は、過去5カ年のランキングと得点の推移であるが、当然ながら得点が上昇すれば、順位も上昇することが理解できる。

表3 ラテンアメリカ主要国の左派政権大統領リスト

3)左派政権だと腐敗度が低下するという常識は正しいかどうか?

 ここで興味深いことを話題にしてみよう。一般的に左派政権が権力を握ると、右派政権に比較して汚職・腐敗が減少するようなイメージを受けやすい。
 しかし、ラテンアメリカの現状を見ると、必ずしもそのようになっていない。下記の表はラテンアメリカの主要な国々の左派政権の大統領就任年月を示している。
 上記の表をみると、ランキングを大きく落とした国、例えば、ホンジュラス、ニカラグア、ベネズエラ、アルゼンチン、ペルーなどは左派政権である。
 逆に上昇した国には、エクアドル、メキシコ、ブラジル、ウルグアイ、コロンビアがあげられる。ランクが上昇した国のうち、エクアドルのラッソ現大統領、メキシコのロペス・オブラドール現大統領、ウルグアイのラカジェ・ポウ現大統領時代でいずれも右派の政治家であるし、ブラジルとコロンビアの場合、右派のボルソナロ前大統領、ドゥケ前大統領時代に上昇している。
 ボリビアとドミニカ共和国の2カ国のみが、左派政権化でランキングが上昇している。今後、ピンクタイドの流れと腐敗認識度インデックスの上下の変化を注目したい。

4)ラテンアメリカで腐敗を減少させるには

 23年2月9日付けのオッペンハイマーレポートは「ラテンアメリカ汚職対策は進んでいないが、闘いは学校から始めるべきである」と題する記事を紹介している。学校教育を通じて汚職を減少させるべきという息の長い意見である。
 筆者は、ラテンアメリカでの腐敗を減少させることができるかについて、前述の2022年3月「世界腐敗認識指数2021年版」で下記のような意見を紹介している。コロナとピンクタイド下にあって、腐敗状況が悪化する傾向にある中、もう一度真剣にこの問題を理解したほうが良いと思われるので、再掲させていただきたい。この問題についての読者のご意見を賜れれば幸いである。
 「この点につき、筆者は下記のような意見を持っている。その解決法につき私の個人的見解を述べたい。もちろん、言うは易しで実現できるかは、ひとえにその国の国民の意思と行動にかかっていることは当然である。すべて一朝一夕とは行かないものである。このテーマは、みんなで一緒に考えるに十分価値のあるものである。
①各国の国民が認識し、行動に移すべきこと
*汚職撲滅を掲げて立候補する大統領には疑ってかかること
*任期を延長させるような企てをする大統領やポピュリスムで国民の人気をとろうとする大統領(候補)には信用しないこと、拒否をすること、投票しないこと
*左派の大統領と言えども汚職に関わるものだと認識すること
*目先のバラマキ方式は、必ず破綻し、最終的には国民がツケを負担することになることを理解すること
*過去の教訓から学ぶこと
*教育や格差是正に最大限力を入れるべきことを政府にもっと要求すること
②オッペンハイマー氏が言うように、「独立した司法長官(注=ブラジルの場合は連邦検察庁長官)を任命し、三権分立を尊重し、報道の自由を認め、汚職防止機関に資金を提供する可能性が最も高い人物を支持し、投票することも大切である。ただ、このことがなかなか実行に移せないところに問題がある。
③リカバリー・ショットの許容度をもっと制限・考慮すること
 この点は少し説明が必要である。数年前におこったブラジルのラバ・ジャット事件などをみると、日本人にとって、いくつかの信じられないことが指摘できよう。まず第1は、収賄者の限りない国内外への広がり、第2は、収賄額の巨大さ、第3は、贈収賄方法の露骨さである。その背景となる日本とラテン系の国民性の相違について考える上で、①国民の寛容度と許容度の相違と②リカバリー・ショットの有効度の相違を知ることが必要である。
 ブラジルやラテン系の人々は、総じて寛大な性格を持っている。自分に対しても他人に対しても寛大である。時間に対しても寛大だし、お金に対しても寛大である。政府予算などは、時折ルーズとも思われる時もある。どこの国でも贈収賄は罪であり、法律に抵触する。
 しかし、ここで問題となるのは、どの程度までが、大目に見られるのか、許容範囲なのか?ということである。日本とブラジル等ラテン世界では相当大きな相違があると思える。ラテンの世界では、貧富を問わず、政府、政府機関、公社公団、企業で出世し、収賄者の仲間に入るくらいになると、一族郎党やアミーゴが黙っていない、何とか出世者がもたらす恩恵や甘い蜜にたかろうと集まってくる。
 日本の場合もネポテイズムが存在するが、元々許容度の幅が狭いのと、少しやりすぎるとマスコミ沙汰になることもあり、限定的と言える。
 もう一つの重要なポイントは、ラテンの世界では、一度又は数度、悪いことをして、有罪になった人でも、二度、三度としぶとく活躍する人が少なくない。特に政治家に多くみられる。
 日本では、名誉回復のためのゴルフでいう名誉回復・失地回復のための「リカバリー‣ショット」はなかなか認められない。一度でも破産したり、事業に失敗したりすると、その後成功しても名声に尾を引くケースが少なくない。
 ラテン世界では、寛容度の幅が大きいので、「リカバリー・ショット」で表舞台に出てきた人物もあたかも何も悪いことをしなかったかのように堂々と振る舞うのを常とする。この点も、贈収賄問題が繰り返されることと関連してくるように思える。
 したがって、ここで主張したいのは、国民の汚職度の寛容度については、国民性という大きなテーマなので一朝一夕に変えることは困難であるが、リカバリー・ショットについてはより厳格な対応を採ることによって少しは贈収賄を減少させることができるものと思われる。
 例えば、有罪判決を受けた場合、以後10年~20年間、あるいはそれ以上公務につけないようにするというような方法である。
④国民の教育度を高めること。政府高官による腐敗や汚職を防止するには、国民の民度や教育水準を高めることが必要である。
 腐敗度指数のランキングや得点の高いラテンアメリカの国々を見ると、ウルグアイ、チリ、コスタリカ、キューバとなっており、域内では教育熱心な国であり、所得も比較的高い国である。ラテンアメリカの人口1000万人以上の国で上記4カ国に続く国が出現することを期待したい。
⑤最後に、仮に贈収賄があった時に、収賄者の当事者が受け取らずに、勇気を出してOX社から贈賄の話があったというようなことを告発するという方法である。贈収賄は一蓮托生なので、これはあり得ない話かも知れないが、このような告発者が増えると、贈収賄に少しブレーキがかかるかも知れない。
(出典=連載レポート108:桜井悌司「2023年世界腐敗認識指数について」https://latin-america.jp/archives/57036

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