「ボクの人生は滝に縁があるんだよね」――世界最大の滝があるパラナ州フォス・ド・イグアス市でイグアス旅行社を経営する齋藤信夫さん(80歳、栃木県出身)を取材すると、そんな印象的な言葉をのべた。
2月26日に開催された南米産業開発青年隊協会(渡邉進会長)の定期総会におけるパラナ州からの唯一の参加者で、来聖も10年ぶり。青年隊9期として日本で研修を受けたが、その後、米国カリフォルニア州で2年を過ごし、それから「10期以降」として1965年に渡伯した。
青年隊は日本で土木建築技術を習ってくるので、当地でもその関係の技術者になる人が多い。だが齋藤さんの場合、渡伯時にはウマラーマ実習場がなくなっており、いきなりパラナ州グァイラーで薄荷づくりを始めたという変わり種だ。3年目にサビ病が入り、次の移転先を探し始めた。
グァイラーには当時セッチ・ケーダスという有名な滝があり、のちに下流にダムができて水没した。齋藤さんの出身県には有名な華厳の滝があり、米国時代には近くにヨセミテの滝があったことから「滝に縁がある」と思い、次の移転先は同じ州内のイグアスの滝にしたという。
齋藤さんは移転後、五つ星のホテル・ダス・カタラタスのフロントマンなどを経て、ツアーガイドやコーディネーター業を始めた。そんな1985年頃、有名ジャーナリストの故立花隆を案内したことも。映画『ミッション』の配給会社が、日本人にはなじみのない歴史なので有名人を現地に招待して解説してもらった方が良いとの趣旨から立花隆を招へいし、齋藤さんがゆかりの地を案内したという。
同映画は、18世紀のパラナ川上流域で先住民グアラニー族へのキリスト教布教をするイエズス会宣教師たちの葛藤を描いたもの。
齋藤さんはその時の思い出を青年隊機関誌211号に寄稿した。そこではサンミゲル教会遺跡の休憩所での立花隆との会話が描写されている。《二人のブラジル人の女の子が入ってきて、アイスクリームを舐め始めました。それを立花氏が見て指さしながら「斎藤さん、あの子たちの舐め方、ちょっとエロチックじゃない?」》と言ってきて、斎藤さんと二人で大笑いしたとのこと。斎藤さんは《「日本の知の巨人」といえども、人の子ですね》と書く。
齋藤さんは「立花隆さんはすごく熱心に3カ国にまたがるインディオ教化部落を詳細に取材していた。その後に来た村上龍さんはどちらかと言えばドラード釣りの方が中心で、教化部落取材の方は付け足しのような感じでしたかね」と思い出す。
齋藤さんは1990年にイグアス旅行社(電話45・3574・4983)を創業、2009年には自前のホテルも開業。「コロナ前には日本から滝観光に毎年平均7千人の観光客が来ていた。一番多かったのは2013年の1万5千人かな」と振り返るが、「パンデミック以降はゼロだよ、ゼロ」と残念そうな表情を浮かべた。
世界からの観光客は確実に復活の兆しを見せている。日本からも近いうちに元通りになるかもしれない。