ふるさと巡り一行を魅了した日本舞踊団「愛歌(あいか)」のリーダー、ジョアンさんに続き、舞扇子と華麗に使いこなすルカス・ボルゴさん(18歳)にも話を聞いた。
ルカスさんは地域に日本文化に詳しい人がいないため、一人で日本の伝統文化について調べ、愛歌での振り付け担当役をこなしている。ルカスさんが披露した山梨県民謡武田節の完成度は、これまでサンパウロ市で数々の郷土舞踊を見てきた一行を驚かせるに足るものだった。
ルカスさんは愛歌に加わる以前は地域のアフロ系グループに所属していたが、2018年に行われた民族芸能会で愛歌に魅了され、当時のアフロ系グループリーダーの交代を機に脱退し、愛歌へ参加した。
ルカスさんはリーダーのジョアンさん同様、以前はポケモンなどの日本のポップ文化にしか関心がなかった。伝統文化に関心を持ち始めたのは愛歌入団以降だという。
日系イベントに参加するようになってからは、達磨や七夕、和服など、あらゆる日本文化の由来や意味を調べるようになった。
日本の伝統文化について愛歌が属するサクラ協会の日系人に尋ねた際、幼いころから日本文化に慣れ親しんでいる彼らは「自分は日本の伝統文化を知っている」と思い込む傾向があることに気づいた。「日系人に聞くより自分で調べた方が深い学びを得ることができた」と振り返る。
ルカスさんは愛歌で、沖縄を除く日本全土の郷土舞踊の振り付けや、文化背景調査など行っている。
ルカスさんは「すでによく知れ渡っているものではなく、まだ知られていない美しい日本文化を見せたい」との思いを抱いている。愛歌でも最初に挑んだのは武田節だった。
ルカスさんにとって武田節は「一踊り子から日本文化愛好家、研究家へ変わるきっかけ」になったものだという。歓迎会で披露した武田節は「日本の映像を参考にしながら試行錯誤を重ねて、軽やかさ、力強さ、神秘性を表現した」という。
ルカスさんは今後、米や茶の農家や漁師、籠職人などの「労働者」に焦点をあて、舞踊を極めていきたいと話す。「武田節をはじめ、ブラジルでは知られていない日本文化を披露できることを誇りに思う」と胸を張った。
ルカスさんは交流会で一行の一人から「今日は人生で一番幸せな日だった。もう死んでもいいわ」と言われたという。「自分の踊りが日本人の郷愁を呼び起こすことができたということ。これより嬉しいことはない」と感動した面持ちで語った。
ルカスさんは非日系人で、幼い時から日本文化が身近にある環境には居なかった。舞踊の専門家もいない中で、日系人観客を魅了する技術を会得した秘訣を尋ねると、「僕たちは日本人の血を受け継いでいない。僕たちは違う民族の文化を代表しようとしているんだ。人から預かっているんだから最高なものを披露する責任があるだろ?」と雄弁に語った。
次回は、本当に踊りの経験がなかったのかと疑いたくなるほど華麗に舞扇子を使った踊りを見せた、愛歌入団1年足らずのハケル・リバスさん(16歳)の体験談を伝える。(続く、仲村渠アンドレ記者)