県連ふるさと巡り南大河州編=誕生と終幕、南伯に新胎動=(5)=1週間の特訓で優雅な舞傘踊り披露=内気なラケルさんを日舞が変えた

ラケルさん

 南大河州イジュイ市で行われた歓迎会では、日本舞踊団「愛歌」による盛大な演技披露が行われた。武田節を披露したルカスさんに続いて、浴衣をしっとりと着こなして優雅な舞傘踊りを披露したのはラケル・リバスさん(16歳)だ。
 踊りの立派さからつい日本人師匠に踊りを習ったものと思って話を聞くと、なんと「舞傘を使った踊りの練習期間は一週間もなかった」「これまで踊りの経験は一切なかった」と耳を疑うようなコメントが出てきた。
 ラケルさんもルカスさんと同じく、愛歌入団までは日本の伝統文化と接点はなかった。それまではアニメなどポップ文化にしか興味がなかったが、日系イベントで舞踊を見るうちに、伝統芸能に関心を持ち始めていった。
 ラケルさんは愛歌リーダーのジョアンさんの従妹にあたる。ジョアンさんから何度も入団を勧められたが、当時は精神的に不安定な時期だったことと、興味はあったが踊りの経験がなく自信を持てなかったために入団を断り続けてきた。
 去年7月にジョアンさんが練習へ向かう直前、ラケルさんを連れていくと突如宣言。彼女は「今回は何を言ってもダメだ」と察し、諦めてついていった。
 まだ入団して1年にも満たないが、「愛歌に入る決断をしたことは、これまでの人生で一番いい選択だったと思う」と確信する。今では「あの日無理矢理連れてきてもらったことに感謝してもしきれない」と頬を赤くしながら話した。
 幼いころから踊りを習いたいとの希望をもっていたが、実際に始めることはなかった。愛歌入団を通じて初めて舞踊に触れた。
 歓迎会でラケルさんが披露した舞傘踊りは、当初の演目予定にはなかったという。歓迎会1週間前にルカスさんから提案を受け、数日後の最終練習で愛歌総括コーディネーターのルイザさんに毎傘踊りの提案を行うと採用された。練習期間は1週間足らず。ルカスさんと2人で練習を重ねた。
 当日使用した舞傘は去年、在ポルト・アレグレ領事事務所から寄贈されたもの。普段は練習用のものを使い、寄贈の舞傘は歓迎会で初めて手にしたという。
 「練習期間が短くて緊張したけど、舞傘踊りの演技時間は短かかったから落ち着いてできた」と照れながら話し、「これからも磨き続けていきたい」と雰囲気を一変させて力強く語った。

 愛歌入団前のラケルさんは、人見知りな性格で、踊りに自信がなく、人前で何かを披露することに強い抵抗感と恥ずかしさを覚えていた。それが今では、熱心に踊りに取り組み、注目を浴びるソロの演技披露まで行うようになった。
 「いざ入ってみると周りの人たちが優しくて本当に安心できる。だから私も頑張ることを続けられたんだと思う。一緒にいる仲間も環境も大好き。今では愛歌は私の第二の家族よ」と優雅な舞を支えているものが何かを語った。
 ラケルさんは「私は日本人の血を継いでいないけど、日本文化を愛しているわ」と話す。明るく話す素振りとは裏腹に、日本人の血を引いていないことに対する引け目を感じているようにも思えた。だが、血統を超えて日本に対して抱く「想い」は、血縁を超える日本との繋がりなのではないだろうか。
 彼女は「自分の踊りを通して、舞踊の背景にある日本文化や感情を観客に表現したい」と熱く語った。(続く、仲村渠アンドレ記者)

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