世界に知られるべきブラジルロックの女王

ヒタ・リー(Flickr/Carol Mendonca)

 ヒタ・リーが亡くなった。言わずと知れたブラジルロックの女王だ。彼女の訃報に対するブラジル社会の反応はとても大きい。コラム子は13年間ブラジルに住んでいるが、その大きさは昨年末のペレに次ぐのではないだろうか。彼女と同時期に活躍したエラズモ・カルロスやガル・コスタへの反応よりも確実に大きい。人気絶頂で若くして亡くなったセルタネージョ歌手のマリリア・メンドンサやコメディアンのパウロ・グスターヴォよりも上だろう。
 これは日本のブラジル音楽ファンには想像しがたいことだと思う。日本での彼女の知名度はそれほど高くないからだ。日本でブラジル音楽といえばどうしてもボサノバや似たテイストのMPBが代表的で、ブラジルのロック文化は浸透していない。
 ヒタは、キャリア初期に在籍した「ムタンチス」がカエターノ・ヴェローゾや彼の起こしたムーブメントの「トロピカリズモ」に絡んでいるので、その筋から彼女を知っている人はいる。
 だが一般に、彼女がムタンチスを脱退してソロになった後、ブラジル内ではある年齢層から上の人なら誰でもその曲を知っているようなロックスターだということを知る人はほとんどいない。彼女のヒット曲がブラジル音楽として紹介される機会がほとんどなかったからだ。
 ヒタには知られないままではもったいない魅力と価値がある。彼女には「ブラジルロックの女王」との評価だけでは足りない。南米で彼女に匹敵する女性ロック歌手は今日まで生まれていないし、もっといえば、オーストラリアやアフリカでもそうした存在はいない。「南半球一の女性ロック歌手」といえる存在だ。
 彼女がムタンチスでデビューした60年代にロックを歌った女性は圧倒的な音楽市場である英語圏でさえジャニス・ジョプリンと、ほか数人程度のもの。ヒタが国民的人気歌手になった70年代半ばに英米で同じような立ち位置にいた存在も少ない。
 これはコラム子の願望だが、ヒタの伝記映画を作ってネットフリックスで配信してほしい。「ボヘミアン・ラプソディ」を始め、ロックスターの伝記は近年人気だ。ネットフリックスなら世界規模で配信されるし、一気に国際的な人気に火がつくことも考えられる。実際にそうなるかはわからないが、そんな夢を抱かせる力が彼女にはある。(陽)

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