3月21日に100歳を迎え、盛大に祝賀会を催したサンパウロ市在住の梅崎嘉明さん(奈良県出身)の代表作、2004年にコロニア文芸賞を受賞した小説集『流氓』(矢嶋健介著)を、本人の許可を得て本日から転載することになった。矢嶋健介は梅崎さんの小説家としてのペンネーム。
梅崎さんは1923年3月21日に奈良県に生まれた。1932年、護憲革命真っ最中のブラジルに9歳の時に家族に連れられて移住し、以来91年を過ごした準2世、子供移民だ。
「護憲革命」は1932年、サンパウロ州民がリオの連邦政府に対して、「憲法を護れ」と反旗を翻した革命のこと。
『流氓』の冒頭には護憲革命の様子や実体験が綴られ、思春期を迎えるころに勃発した第2次大戦と、終戦直後の勝ち負け抗争へ続く時代背景を織り込みながら、ストーリーは進展していく。
『流氓』の序文の中で戦前移民の小説家、松井太郎さんは《世界史の中でも、かつてない規模の動乱の世代に、海を渡って往った若者たちの倖せ薄い出会いを、矢嶋氏は長恨歌として詠っている。私は、秋の夜長に刻を忘れて通読した。哀れとも、痛ましいとも言える沈痛な印象が永く残った。近来の日系文学界に傑出する労作である》と論評した。
松井さんはブラジル日系社会の小説家としては数少ない日本で評価された作家。『うつろ舟』(編集者・西成彦、細川周平、松籟社、2010年)など2冊の小説集が日本で出版されている。