サッカーブラジル代表(セレソン)監督にカルロ・アンチェロッティ氏の就任が決定したとの報道が19日に行われ、それ以来、ブラジルのサッカーファンはこの話題に酔いしれている。コラム子はブラジルに13年住んでいるが、彼らがこれほどまで夢中になっている様は見たことがない。
ブラジルのサッカーファンは非常にシニカルで毒舌な人も多いのだが、「カルロが来たからにはW杯のエキサ(6回目の優勝)は間違いない」「カルロだったらたとえ1―7で負けてても、すぐに8―7で逆転だ」などと、SNS上では随分と調子のいい言葉が飛び交っている。
世界一流の有名クラブ監督が国の代表を率いることは珍しく、たしかに話題性は高い。しかし彼らがここまで夢中になる理由は「カルロ・アンチェロッティ」という人物がブラジルサッカーファンにとって、何者にも代えがたいブランド的存在であることを知らなければならない。
時は2000年代にまで遡る。当時、カルロはイタリアの名門クラブACミランで監督を務め、その全盛期の立役者となった。チームにはロナウジーニョ、カカー、チアゴ・シウヴァというブラジルを代表する名選手たちが所属しており、ブラジル国民にとってカルロは、彼らを見事に育てあげた名指揮官という印象が強い。
そこに加えて、現在率いているレアル・マドリッドには、これからのセレソンを担うヴィニシウス・ジュニオル、ロドリゴがおり、カルロは2人を一人前に育て上げ、欧州チャンピオンズ・リーグでの優勝を経験させた。最近ではこの2人の活躍でブラジル内のレアルファンが増加しているほどであり、「ブラジル人気選手の陰にカルロあり」との評価が浸透している。
ブラジル・サッカー協会(CBF)のエジナルド・ロドリゲス会長が、前例のない粘り腰を見せて監督就任要請を行っていたのもこのあたりが理由だろう。「ただ単に外国人監督を招聘するだけでは意味がない。ブラジルのサッカーファンが一体となって盛り上げられるような人物」となると、確かに他には思いつかない。
このようにカルロ監督の就任決定はセレソンにとってかなりの朗報であるように思われるが、油断はできない。彼はまだ契約書にサインをしたわけではないし、就任もレアルとの契約が切れる2024年からだ。それまでにカルロの機嫌を損ねて破談になる可能性も残っている。
加えて、就任までの1年間にW杯予選が始まってしまうので、そこを代行監督で切り抜けねばならない。果たして代行指揮でうまくいくのかとの不安も漂う。これらの課題をクリアして、来年の正式監督就任を待ちたいところだ。(陽)